僕のお母さんは美人

小学生のとき、少し変わった塾に通っていた。6年生の一年間のことだった。塾の生徒数は全部で8人だけだった。2クラスに分かれるので1クラスは4人しかいない。4畳半の小さな部屋なのでそれだけしか入れなかったのだ。真ん中に先生の座る席があり、四方の壁に生徒が一人ずつ座る。そんな並び方だった。もちろん、他の日には他のクラスがあるのだが、生徒クラス間の交替はなく、いつも同じ顔ぶれだった。

全員が男の子で、その中の一人、N君の口癖は「僕のお母さん、美人」というものだった。鉄道模型の高級なのを持っていることを自慢にしていた。違う小学校の生徒だったので、家も離れていた。

ある日、鉄道模型を見せてもらいにN君の家に遊びに行った。見たくてたまらなかった蒸気機関車の模型を見るだけではなく、さわらせてもらった。そしてN君の言うとおり、お母さんは美人だった。和服を着ていた。

N君がつねづね言っているから美人に見えたのかもしれないなどと今にして思う。N君は自分自身の審美眼にしたがって、そういうセリフを口にしていたのだろうか? まさか、お母さんがそう感じるようにしつけをしたとも思えないのだが。

その塾の仲間は全員が同じ中学に合格した。合格の祝いに両親に蒸気機関車を買ってもらった。嬉しいはずなのに、あまり、嬉しくなかった。趣味というか興味というか、入学試験を過ぎてしまった後に変わってしまったのだった。