山の頂(平成26年10月28日)

関西のとある山の名前

六甲山 鉢伏山 円山

山頂はなだらかな傾斜

とんがった山などどこにもない

時間をさかのぼれるのなら

山ができた瞬間に立ち合いたい

山がとんがっていた時に

戻ってみたい

男子厨房に入るべからず(平成26年10月28日)

こんな言い伝えがあった

男子厨房に入るべからず

封建的 男女差別 女性蔑視

非難は雨あられと語られる

深い知恵があったとは誰も思わない

厨房では火のために熱がこもり、

片肌脱ぎ、もろ肌脱ぎが

当たり前

そんな中に男が混じればどうなるか

そうではなくとも

複数の人間が協力しあって

調理をするとき、同性どうしの方が

まとまりがいいはずだ

 

 

男の涙(平成26年10月28日)

すっかり定着した

夫のお産立ち合い

赤ちゃんが産道をとおり

全身を現わすと写真をとって

涙を流し笑顔を輝かせる

生まれたばかりの児は顔をしかめて

泣いているのだが

母親は安堵する

子どもが無事生まれたことに

夫が良き父親になりそうな予感に

月日が過ぎて

4人に一人夫は家庭を顧みなくなる

3年たてば別の人

男の涙を信じすぎてはいけないよ

塔の家(平成26年10月26日)

男は

一階あたりは6畳の広さだが

10階建てどころか

もっと高い塔の家に住んでいた

ふだんは1階、

ときどき2階、

たまには3階

そんな住み方だった

4階以上は行ったことがなかった

台風の過ぎた日

あまりに空が美しく

男は

上の階へと昇り始めた

我が家なのだが

知らない空間に目を瞠るうち

だんだん高く高く

下界を見下ろす階に届いた

やめればよかったのだが

さらに高く昇って行った

男は降りることを忘れ

住民は男の存在を忘れた

 

 

いい日(平成26年10月25日)

同じ母ネコから生まれた三匹の子猫

エサ皿に顔を押し付け合って

何やら話し込む

おなかがいっぱいになるまで

食べるって

幸せな気分

確かにネコの餌箱はすでにカラッポ

お天気がいいって

幸せな気分

確かに空は青く澄んで晴れている

あんなふうに顔を寄せ合って

日差しに目を細めて

きょうは恐ろしい大型ネコは

まだ現われない

子ネコにとって

こんないい日はない

赤松(平成26年10月25日)

松くい虫にやられてしまった

赤松が切り倒されることになった

切り倒し作業は困難をきわめる

庭園の主は残念な表情をして

作業現場をうろうろしながら

眺めている

植えてから40年

15メートルを超えた巨木が

一日で切り倒された

風のとおりがよくなり

あたりには松の香がただよっている

 

無節操(平成26年10月15日)

耳に心地よい詩を書くのが

詩人の仕事ならば

そうするだろう

目に美しいものを歌うのが

詩人ならば

そうするだろう

口当たりのよい文句を

連ねるのが詩であるならば

そうするだろう

暗く哀しい歌を歌わねばならないのなら

そうするだろう

絶望に淵があるのなら

淵に沈み嘆きの歌を

歌わないといけないのなら

そうするだろう

なんという無節操

 

根拠なき自信(平成26年10月15日)

根拠なき自信だね

と人は嗤う

いいのだ嗤ってくれて

しかし人は知らねばならない

自信に根拠を求めることの結末jを

他方には

根拠なき劣等感とともに

生きる人がいる

当人にとっては

根拠があると言うのだが

いくら言い聞かしても

聞く耳はどこへやら

会うは別れの(平成26年10月14日)

友だちが転校していくので

ぼくは泣いた

見ていた母は

会うは別れの初めだから

なぐさめにもならない言葉を

言うのだった

何年かしてその友だちと

再会したのだがお互いに

ぎこちない態度で時間がすぎていった

友だちであったあの時間が

二度とは戻らないことに

僕は肩を落とした