人知れず(平成29年3月26日)

山のいただき近くの川の始まり

木陰に咲く花々

人知れず咲く花が好きだった男は

人に知られず息をひきとった

桜が咲いているわけもなく

鳥が悲しい歌を歌っているわけでもない

季節のありふれた一日の終わる頃

最後の息をした

誰一人その死を知る者はなく

もちろん誰一人その死を悲しむ者もいない

男は類まれな長寿のために

子も孫も先に逝ったのだった