はさみはピカピカ

週2度目の夜の手術があった。
開始時刻はいつもの定刻20時15分だ。
手術器具台を見ると、全部の器具が新品に変わっていた。
無影灯の光を浴びて、ピカピカに輝いていた。

 宮沢賢治の「鍬(くわ)はぴかぴか」という詩を思い出した。

 ~鍬はぴかぴか~
こういう一行だけを思い出した。

 ピカピカのメス、はさみ、かんし、なにかもピカピカの器具が、正確に、迅速に、操作されて女の子が生まれた。2700グラム。
  ピカピカの新生児である。

帰宅してから、宮沢賢治の詩を探そうとした。
詩集が収められた文庫本をすみからすみまで探しても見つからない。
やはり記憶違いだったのだ。

《 雲の信号 》
ああいいな せいせいするな
風が吹くし
農具はぴかぴか光っているし
山はぼんやり
岩頸だって岩鐘だって
みんな時間のないころのゆめをみているのだ
・・・・