甲子園 その1 甲子園駅

 甲子園と言えば、甲子園球場を思い浮かべる人がほとんどだろう。阪神電車の甲子園駅はそこへいたる道中でしかない。私にとっては半世紀も昔に乗り降りしたふるさとの駅である。駅と球場とは至近距離にあって、途中、簡易食堂が軒を並べていた。行き帰りにその前をとおって歩いた。まもなく始まる試合の見物客の長い行列に阻まれながら、そしてダフ屋さんの声を聞きながら、帰宅の途次を急いだ。
 今も同じ光景なのだろうか? 

 球場の北側を高速道路が横切る。芝生の植えられた広場はなくなった。それは致し方のない空間の利用なのだろう。

 去年、思いついて、甲子園駅に行ってみた。過ぎた半世紀はもう戻って来ないけれども、京都から1時間半の道のりで着いた。そこには同じ空間が残されていた。駅のプラットフォームがあまりに狭いのに驚いた。記憶の中では決して狭いと感じたことはなかった。思わず想像したことがある。
 はたして土俵ひとつがこの幅の中に入るだろうか?
たとえ土俵ひとつを描けたとしても、土俵を割ると線路に落ちてしまう。そんな幅の狭さだった。
 地上からの高度が相当あることにも驚いた。つまり幅が狭くてしかも相当の高さの場所に立つことになるわけで、眺めがよい反面、高所恐怖を感じそうになった。少年だったころにはそんな感覚はまったくなかったのに。

 けれども、プラットフォームを大改修したりしないで昔の姿をもうしばらくとどめていてほしい。甲子園の町はすっかり変わってしまったけれども、駅は階段もプラットフォームも昔のままだった。そのような気がする。これは錯覚だろうか?
 半世紀も持ちこたえたのだろうか?