雨の日に正気でいること(平成26年8月24日)

夢まくらに立ったフロイトは昨夜

こんなことを語った

正気に生きることはむずかしい

正気とは

昨日は遠く過ぎ去った

だから忘れよう

明日はまだ来ない

だから考えないことにしよう

目の前のたった今に集中すること

これこそが正気に生きる道

フロイトの高弟たちはみな

正気に生きることのむずかしさに苦悩した

ましてわれら凡人が

正気に生きることはむずかしい

まして雨の日に

暗い想念に負けて

ただひたすらに日が照るようにと

願うこと以外何もできないのだった

冬にあこがれ(平成26年8月24日)

暑くてたまらず喫茶店に

涼みがてらコーヒーを飲みに行った

常連らしき一団のかまびすしいこと

こう暑くちゃね早く冬にならないかしらね

そう寒くなってマフラーを巻いてコートを着る

夏は衣裳が簡単でいいけどつまらない

冬はいろいろなアイテムを楽しめるわね

こんな話を聞きながら

吹きすさぶ風や舞い散る枯葉や

早すぎる日暮れまでが

恋しく感じられるのであった

見送り(平成26年8月24日)

えらくならないでね

私が会えなくなるような

えらい人に

ならないでね

こういって見送りされた男は

上京二年

胃を病み

やせさらばえて帰郷した

ふるさとの海を前に

非力をかこつのだった

一人二人、また一人と

ふるさと帰郷組がそろい

不運と失敗を嘆きあうのだが

海辺の町で

それぞれの道を歩き始めた

それから十年

妻子と食卓を囲み

職もあれば住む家もある

ないのは肩書きだけ

そんなことにはおかまいなしに

きょうも夕日が海に沈む

くだんの男の仕事は

父のあとをついで町の電気店

電話ひとつで身軽に出かけて

修理やら新品取り付けやら設置やら

アポもなしに突然の訪問をするものだから

相手は居たり居なかったり

田舎者とわらわれる

見送りされた女性に町で行き合えば

「○○ちゃん、元気?」と声がかかり

男のまなこに笑みがうかぶ

 

夢まくら2(平成26年8月15日)

昨晩もフロイトが夢まくらに

立ち、こんな話をした

諸君はゲームについて知らないこと

真剣すぎず、不真面目すぎず

その加減が大事なのだ

きみの国の相撲という試合

あの真面目さが頃合いだ

アフリカヌバ族の相撲は片方が負傷するまで戦う

たかがゲームで負傷してはいけないよ

人生そのものも同じだ

真剣すぎても生きずらい

不真面目すぎても生きずらい

 

夢まくら(平成26年8月14日)

フロイトが夢まくらに立ち、

こんなことを言った

人がありありと想像できる時間は

過去1週間と未来1週間だけ

合計2週間だけが諸君の持ち時間だと

1週間以上も前のことは諸君が責任をとれず、

1週間以上先のこともまた諸君は責任をもって

見通すことができない

1週間以上前のしたことしなかったことは

時効にかけなさい

1週間以上先のことも不確かすぎる

目の前の2週間にだけ焦点を当てて

生きるがいい

フロイトはこんなことを

夢まくらに立ち

私に語ってくれた

年寄り夫婦の会話(平成26年8月4日)

( 銀行編)

ピン札ないかな

そんなんあらへんよ

銀行にいかなあかんな

そうやな

自動両替機でいけるやろか

そらむりやな

ピン札は窓口やで

(紙幣編)

一万円札は誰やったかな

あんた福沢諭吉に決まってるやんか

いつ頃からか忘れたな

五千円札は誰やったかな

伊藤博文とちがうか

そんなら千円札は誰やろか

知らん

忘れたな

気になる

財布を見てこよかな

まあええわ

めんどうやな

明日の朝でええわ

それより

誰かてええやんか

わいはそんなん気にしてへんで

翌朝

二人とも

千円札は誰か

財布をみることを忘れていた

電車の車内風景(平成26年8月2日)

住宅に畑に田んぼを両側に

私鉄電車は線路を疾走する

線路はまっすぐどこまでも

(これなら僕でも運転できそうだ)

車内ではスマホをながめて

何やら忙しそうな乗客が席を占める

なかでもひとり若き女性

持参の紙袋からテイクアウトの

のみものを取り出し

一口のんでは

バウムクーヘンの小片を口にいれる

人前で堂々と落ち着き払った飲食は

まるで室内風景のよう

30分の車中時間を有意義に使うには

スマホ、飲む、食べる

三つを同時並行に進めるわけだ

電車は走り人生は過ぎていく

 

カフェにて(平成26年8月2日)

きのう午後の空いた時間

仕事場近くのカフェへ足が向く

離れた席では中年女性が数人

大きな声で話し合い

私はねえ、今度、パレスティナへ

特攻隊に行くんや

様子のいい人が語る

あんたこないだ右肩を骨折したばかりじゃないの

なんてぶっそうなことを言うの

そうなんよ まだ右腕が上がらないけどね

そんな体で何の役に立つの

きかれたくだんの女性いわく

砲弾が落ちてくるとき

こどもの体を私の体でおおうのよ

そうすれば被弾は私の体で

食い止められる

これが私の特攻隊なんよ

話題は次に介護のぐちへと

移っていった