誕生日

ある年齢になると、誕生日を迎えたことをなげいてみせるのが、当節の風習らしい。この世からあの世へと移る時期があらかじめ決められていると仮定してみよう。ひとつ年齢を加えるごとに、終点までの時間が短くなるのだから、なげきたくなるのは無理もない。
あの芭蕉だって、「門松は冥土の旅の一里塚」と詠んでいる。  
あの晩も、「明日はきっといい日になる」と信じて、たくさんの人が眠りについた。
明け方、地面が揺れて、たくさんの人々が亡くなった。そう、明日の命は約束されていないのだった。  
寿命は誰からも約束されていない。  
誕生日の夜、床の中で、母を思い出しながら、そして母がこの世を去った日を思い出しながら、またひとつ年齢を重ねられたことを、ひとり喜んだ。

(2004年9月28日擱筆)