日曜日の朝、遠くへ出かける用があって
まだ早い時間に妻と駅に向かった
プラットフォームには一組の親子らしき人物がベンチに
座っていた
私の診療所に通う女子高校生とその母親だった
ピアノ全国コンクールで優勝経験のある生徒で
年下ながら私の尊敬する人物であった
私の妻もピアニストで
自己紹介しておこうねと声を
かけて、その親子に近づいた
すると妻は
驚くほどの
丁重な言葉と態度で
なにがしの妻でございますと
その親子に挨拶をした。
あとにも先にも
妻のそのような姿を見たのは
なかった
上手だなと妻の演奏を
いつも思い、なんで無名なんだろうと
不思議に思うことがあった
上には上があって
かつまた層の厚いのがピアニストの世界で
きっとその女子高校生の方が
ある面では妻よりも上手なのだと思う
無名のままで終わった妻には
何の嫉妬もなかったものと
思う