夜になると
「やくざが殺しに来る」とさわぐ男がいた
「そんな人が家に来るわけはないでしょ。
あなたの言ってることは妄想っていうの」と
妻は答える
男は夜ごと夜ごとに同じせりふを言い
妻はほとほと疲れてしまった
ある晩
妻は思いついてこう云った
「もしやくざが家に来たら
わたしがあなたを守ってあげる
だから心配しないで」
男は安心して眠りに落ちて行った
次の日
男はデイサービスに行き
習字にこう書いた
「〇〇子、大好き大好き」
妻はその習字を見て
最初で最後のラブレターと
つぶやいた