シベリア帰り 水の思い出(2019年8月2日)

6万人のシベリア抑留

その中に父は入っていた

厳寒の地に2年足らず

 

水の配給は一人コップ一杯ほど

口に含んでうがいをし

うがいが終わると両手に受けて

それで顔を洗った

 

そう

捕虜同然の者にとっては

水こそ命

 

定期的にソ連人医師による身体検査が

行われた

素っ裸にして女性医師の前に立たされるのであった

大きなペニスの男を見ると

女性医師がうれしそうな表情をしたという

女も飢えていたのだろう

 

父は早くに帰国を認められた

やせていたし

私とちがってなかなかのイケメンだったから

女性医師が情けをかけてくれたにちがいない

 

何十年もたつのに

毎夜水道栓はあいていないか

水は滴っていないか

就眠儀式のように

点検するのであった

 

水のしたたり落ちていく

一滴一滴を見つめている