小倉山中腹にある古刹では
中年に耳を患い全聾の寺男が
除夜の鐘行事をとりしきる
かがり火をたき、京中心部の明かりを
見下ろし、参拝客がひとつ
ひとつまたひとつと鐘をつく
風雨予報のこの夜に
挙行できるか朝から気をもんでいた
予報どおりに
夕方に降りだした雨
豪雨の夜にもやらねばならぬと
住職が命じた
異常気象が日常になり
天候が人の暮らしを変える
異常気象に適応できる者だけが
生き延びる
適者生存
そのとき
強い者は絶え
弱い者が耐える
弱者こそが生き延びる
小倉山古刹の鐘の声
強者必滅
弱者生存の響きあり