きみはアイロンかけをしたことがあるだろうか
きみはいつもアイロンかけをしているだろうか
ここにアイロンかけのじょうずな男がいる
貧乏学生だった頃にアイロンかけをおぼえた
おぼえた行為は習慣となり
思考を必要とせず腕が動く
男は毎晩
幼稚園の制服にアイロンを当てる
娘は四歳年少さん
定職がないわが身のふがいなさが
ときに脳裏をよぎるのだけれど
今夜もアイロンかけに余念がない
園から帰宅し娘が見せた表情を
思い返すとき手がとまる
服の上に一滴、二滴としたたり落ちた物があった
目からの涙だったのか
額からの汗だったのか
男はアイロンかけを続けた
家族の寝静まった夜の
闇の深さが一層深くなった