アイロンかけ(平成27年11月1日)

きみはアイロンかけをしたことがあるだろうか

きみはいつもアイロンかけをしているだろうか

ここにアイロンかけのじょうずな男がいる

 

貧乏学生だった頃にアイロンかけをおぼえた

おぼえた行為は習慣となり

思考を必要とせず腕が動く

 

男は毎晩

幼稚園の制服にアイロンを当てる

娘は四歳年少さん

定職がないわが身のふがいなさが

ときに脳裏をよぎるのだけれど

今夜もアイロンかけに余念がない

 

園から帰宅し娘が見せた表情を

思い返すとき手がとまる

服の上に一滴、二滴としたたり落ちた物があった

目からの涙だったのか

額からの汗だったのか

 

男はアイロンかけを続けた

家族の寝静まった夜の

闇の深さが一層深くなった