少年野球(平成27年3月22日)

春爛漫とはこんな日のことなんだ

しみじみ思う

そんな土曜の昼下がり

少年野球のコーチをつとめる男は

息子の動きを目で追った

 

もうすぐ10歳になる男の子は

格別うまくはないが

上手になりたい意欲を

父親はかっていた

空振りして打席を離れる息子の

気持ちが身振りから読み取れた

 

風がコーチの帽子をさらおうとしたとき

自分が死んだら息子が

どれほど悲しむことか

そんな考えに襲われた

春爛漫の日に

自分は

なんてことを思うのだろう

息子のために

息子のためだけに

自分は生き延びなければならないと

帽子をかぶりなおしながら

男は思うのだった

 

願わくは花の下にて春死なむ

そのきさらぎの望月のころ

花を見て西行もまた

死を思ったのだろう

息子をもつ自分は彼よりも

ずっと恵まれている

 

青空と

野球少年たちの白いユニフォームが

対比をなす

そんな風景の中に

男はとけこんでいった