満ち満ちて(平成27年4月19日)

目覚めているのか眠っているのか

わからぬままに土曜日の夜が明けて

カーテンの向こうには

どんよりと空が広がり

朝なのか昼間なのかわからぬままに

日曜日の一日が始まった

ちょっとこわそうな顔の男が

行く手に道行く私を待っており

「〇〇です」と名のられてびっくり

片手にたばこを持った

旧知の人物であった

病院の外出許可をもらって

道を歩いていたのだった

「いいズボンをはいてますね」と

私のかなりよれたズボンをほめてくれた

なんだかとてもうれしくなり

彼がこれから帰っていくのは何十年と暮らす精神病院の一室

自由なはずの自分が彼になぐさめられるとは

元気そうですねと言うと

あほは元気なんですよと冗談が返ってきた

昼間なのか夕方なのかわからぬままに

日暮れようとするなか

ゆっくりと自転車に乗っていると

旧知のご老人から

「自転車の後輪の空気が抜けてます

このまま坂道を昇るのはえらいでっせ」

と声がかかった

タイヤに気がつかないほど私にはとらわれていることが

あったのでった

なんだかその親切がとてもうれしくて

自転車を降りて押して歩き

空気入れでさっそくタイヤを満たした

満たされたのは私の心もであった