見送り(平成26年8月24日)

えらくならないでね

私が会えなくなるような

えらい人に

ならないでね

こういって見送りされた男は

上京二年

胃を病み

やせさらばえて帰郷した

ふるさとの海を前に

非力をかこつのだった

一人二人、また一人と

ふるさと帰郷組がそろい

不運と失敗を嘆きあうのだが

海辺の町で

それぞれの道を歩き始めた

それから十年

妻子と食卓を囲み

職もあれば住む家もある

ないのは肩書きだけ

そんなことにはおかまいなしに

きょうも夕日が海に沈む

くだんの男の仕事は

父のあとをついで町の電気店

電話ひとつで身軽に出かけて

修理やら新品取り付けやら設置やら

アポもなしに突然の訪問をするものだから

相手は居たり居なかったり

田舎者とわらわれる

見送りされた女性に町で行き合えば

「○○ちゃん、元気?」と声がかかり

男のまなこに笑みがうかぶ