谷底に落ちて(2020年9月5日)

私が 45歳のとき

母が逝った

「息子よ、私がいなくなってもあなたは生きていける。

私は逝きます。

ときどき私を思い出してほしい

私はいつもあなたのそばにいる」

私が63歳のとき

父が逝った

「せがれよ、わしがいなくなってもおまえは生きていける

わしは逝くぞ。

ときどきわしをおもいだしてくれ

わしはいつもおまえのそばにいる」

私が68歳のとき

妻が逝った

「夫よ、私がいなくなってもあなたは生きていける

私は逝くわ

ときどき私を思い出してほしい

私はいつもあなたのそばにいる」

頼る人、もたれかかる人が

次々と逝き、

そのたびに光のささない谷底に落とされ

はだしの足ではいあがってきたのだった