私が 45歳のとき
母が逝った
「息子よ、私がいなくなってもあなたは生きていける。
私は逝きます。
ときどき私を思い出してほしい
私はいつもあなたのそばにいる」
私が63歳のとき
父が逝った
「せがれよ、わしがいなくなってもおまえは生きていける
わしは逝くぞ。
ときどきわしをおもいだしてくれ
わしはいつもおまえのそばにいる」
私が68歳のとき
妻が逝った
「夫よ、私がいなくなってもあなたは生きていける
私は逝くわ
ときどき私を思い出してほしい
私はいつもあなたのそばにいる」
頼る人、もたれかかる人が
次々と逝き、
そのたびに光のささない谷底に落とされ
はだしの足ではいあがってきたのだった