とある郊外の精神科病院の
昼下がりの診察室では
医師面接が行なわれていた
「あなたのほしいものは何ですか?」
と尋ねられて
「嫁さんがほしいです」
と答えが返ってきた
自由な時間ですだとか
まとまった額の小遣いですだとかの
答えを予想していたのだ
気分の波がある病気の人だったのだが
芯のところでは至ってまっとうな人の心が
生きていた
入院してから20数年がたち齢50歳余り
この先も長い入院生活が待ち受けている
手に入るはずのないものと
知りつつ望みを語ったのだろう
病院のへいの外には
田園が広がり
点在する家々では
お嫁さんのいる男たちの生活が
なんの疑問をもつこともなく
営まれていた