ほしいものはなに(平成28年2月10日)

とある郊外の精神科病院の

昼下がりの診察室では

医師面接が行なわれていた

「あなたのほしいものは何ですか?」

と尋ねられて

「嫁さんがほしいです」

と答えが返ってきた

自由な時間ですだとか

まとまった額の小遣いですだとかの

答えを予想していたのだ

気分の波がある病気の人だったのだが

芯のところでは至ってまっとうな人の心が

生きていた

入院してから20数年がたち齢50歳余り

この先も長い入院生活が待ち受けている

手に入るはずのないものと

知りつつ望みを語ったのだろう

 

病院のへいの外には

田園が広がり

点在する家々では

お嫁さんのいる男たちの生活が

なんの疑問をもつこともなく

営まれていた