春が来るたび無知を思い知る(平成28年3月6日)

中原中也 「また来ん春」

また来(こ)ん春と人は云(い)う

しかし私は辛いのだ

春が来たって何になろ

あの子が返ってくる来るじゃない

おもえば今年の五月には

おまえを抱いて動物園

象を見せても猫(にゃあ)といい

鳥を見せても猫(にゃあ)だった

最後に見せた鹿だけは

角によっぽど惹かれてか

何とも云わず 眺めてた

 

こどもだから無知はあたりまえ

無邪気ゆえにかわいらしい

笑っていればいいのだが

にわかに不安に襲われる

幼児と自分と どれだけの

違いがあるのだろう

象を見せても猫(にゃあ)といい

春だ 桜だ 花見酒

鳥を見せても猫(にゃあ)だった

春だ 桜だ 花見酒

どこが違う

春が来るたび

われらが無知を恥ずる

遠くへ来たわけではないことを

ただ古びただけであることを

思い知る