明日をも知れぬテキ屋稼業から
どういう風の吹き回しか
精神病院に迷いこんで30年
退院したあとの世間暮らしに
男は背筋が伸びる思いがした
働き盛りを空費したと悔いてはみたが
根っからののんき者
一人暮らしのアパートで気ままを楽しんでいる
かたや
自由になるために懸命に外国語を学ぶ男がいた
節制 修練 禁欲
何もそんなに不自由な生活をしなくてもと
はたの者はかわるがわる忠告するのだったが
これはこれで人の話が聞けぬ頑固者
気ままに生きてきた者と
自由に外国語をあやつる者と
運命の女神はいずれを愛するのだろうか