除夜の鐘

住まいの近くのお寺で鐘をつかせてくれると聞いたので、行ってみた。鐘をかけてあるお堂の周りにはかがり火がともされていて、その周辺には数十人の人がたたずんでいた。確かにお堂の付近には電気の配線がなされていないので、照明器具が使えない。ちょうどバスケットボールのゴールのような形をした金属製の器具にまきを数本くべてともすわけである。空中に浮かぶ焚き火といえばよいだろうか。遠くには京都の中心市街地の明かりがさまざまの色に瞬くのがこずえ越しに見える。神秘的な、あるいは荘厳な雰囲気がお堂に漂っていた。

 順番の札をもらい、冷気の中、かがり火に手を向けて暖をとりながら、ただ番が回ってくるのを待っていた。末尾に近い番号だったので寒さがこたえてきた。来年の大晦日にここに来ることができるだろうかとふと弱気になってしまった。それでも眠気と冷気をがまんしたかいあって、結構、いい音を鳴らして帰路についた。

 山門へ至る下り道はひたすら暗く、懐中電灯で足元を照らす。途中であいにく電池が切れてしまい、闇の中を歩く羽目になってしまった。当然起こることが起きた。階段を踏み外し、まっさかさまに倒れたのだった。腕といわず、足といわず、石にぶつけてしまった。足をひきずりながら、山門をくぐる。顔を打たなかったことと他人に見られなかったことを幸いと思うことにした。時刻はとうに1時をすぎていた。