こんなにも男はつらいよ(平成26年8月31日)

女三界に家なし

だそうだ

男三千世界に家なし

こんなにも男はつらいよ

 

男の隠れ家なんてとんでもない

住処すらない者に

隠れ家のあるはずはない

 

天空に蜘蛛の巣を張るがごとき

至難の業を強いられる

 

ああ蜘蛛がうらやましい

枝から枝へすばやく作り上げ

だんなよろしく獲物を待つだけ

 

作っても作っても破壊される巣を

きょうもまた作り続けるのだ

8月に逝きし弟よ(平成26年8月29日)

姉のわたしの

たったひとりの弟が

8月に逝った

妻とおさな児とわたしを残して

蝉の鳴く暑い日だった

わたしが思うただひとつのこと

もう一度きみに会いたい

わたしの命の半分を

きみにあげたかった

わたしの子が20歳になるまで

自分の命はそれ以上はいらないから

きみの子が20歳になるまで

生きさせてやりたかった

三十路になったばかりというのに

あまりにも早くきみは逝った

なんて哀しい8月

行かないで 夏(平成26年8月29日)

まだ話があるんだ

帰らないでくれ

ふりきって去って行ったきみ

短かった今年の夏のように

 

もっとそばにいてほしい

ずっとそばにいてほしい

きみの肩を抱いていたい

来年の夏が来るといわれても

来年また来るといわれても

そのとき

ぼくがいるかどうか

わからないのだから

 

もっと抱擁していたい

きみとふたりぴったりとくっつていたい

だから行かないでほしいきみ

 

短かった今年の夏

来年は来る 8月は来る

しかしそれは夏かどうか

雨と湿気

冷気と冷温

寒々とした心で

ぼくはいるかどうかわからない

 

8月 哀し(平成26年8月29日)

こんなに哀しい8月が

まためぐりくるとは

6日 長崎

9日 広島

12日 御巣鷹山日航機墜落

15日 終戦

16日 精霊流しに五山送り火

涙なしには見られまい

霊はふたたび還っていく

一族郎党が集う賑わいが

引き潮のように去っていく

広島 豪雨 土石流

8月哀し

お盆をすぎて

海はすでに秋である

レギュラーコーヒー(平成26年8月24日)

行きつけのコーヒー店主の

話しだ

豆を挽き

サーバーに入れて

湯をわかし

ゆっくりと泡立ちを見ながら

注ぐ

ひと手間をかけると

インスタントコーヒーとは異なる

飲み物ができあがる

しかし

コーヒーなんてどうでもいいこと

たかが飲み物なんだから

けれども人生全体となると話しが

ちがってくる

ほんのひと手間をかけるかどうか

その違いが積み重なって

大きな違いが作りだされる

人生における差異とはこのようなもの

雨の日に正気でいること(平成26年8月24日)

夢まくらに立ったフロイトは昨夜

こんなことを語った

正気に生きることはむずかしい

正気とは

昨日は遠く過ぎ去った

だから忘れよう

明日はまだ来ない

だから考えないことにしよう

目の前のたった今に集中すること

これこそが正気に生きる道

フロイトの高弟たちはみな

正気に生きることのむずかしさに苦悩した

ましてわれら凡人が

正気に生きることはむずかしい

まして雨の日に

暗い想念に負けて

ただひたすらに日が照るようにと

願うこと以外何もできないのだった

冬にあこがれ(平成26年8月24日)

暑くてたまらず喫茶店に

涼みがてらコーヒーを飲みに行った

常連らしき一団のかまびすしいこと

こう暑くちゃね早く冬にならないかしらね

そう寒くなってマフラーを巻いてコートを着る

夏は衣裳が簡単でいいけどつまらない

冬はいろいろなアイテムを楽しめるわね

こんな話を聞きながら

吹きすさぶ風や舞い散る枯葉や

早すぎる日暮れまでが

恋しく感じられるのであった

見送り(平成26年8月24日)

えらくならないでね

私が会えなくなるような

えらい人に

ならないでね

こういって見送りされた男は

上京二年

胃を病み

やせさらばえて帰郷した

ふるさとの海を前に

非力をかこつのだった

一人二人、また一人と

ふるさと帰郷組がそろい

不運と失敗を嘆きあうのだが

海辺の町で

それぞれの道を歩き始めた

それから十年

妻子と食卓を囲み

職もあれば住む家もある

ないのは肩書きだけ

そんなことにはおかまいなしに

きょうも夕日が海に沈む

くだんの男の仕事は

父のあとをついで町の電気店

電話ひとつで身軽に出かけて

修理やら新品取り付けやら設置やら

アポもなしに突然の訪問をするものだから

相手は居たり居なかったり

田舎者とわらわれる

見送りされた女性に町で行き合えば

「○○ちゃん、元気?」と声がかかり

男のまなこに笑みがうかぶ

 

夢まくら2(平成26年8月15日)

昨晩もフロイトが夢まくらに

立ち、こんな話をした

諸君はゲームについて知らないこと

真剣すぎず、不真面目すぎず

その加減が大事なのだ

きみの国の相撲という試合

あの真面目さが頃合いだ

アフリカヌバ族の相撲は片方が負傷するまで戦う

たかがゲームで負傷してはいけないよ

人生そのものも同じだ

真剣すぎても生きずらい

不真面目すぎても生きずらい