風が一吹き
もみじの葉が散っていく
はらはらと
別れの時が来たのだ
涙が落ちる
はらはらと
枝に葉が萌えいでた春に始まり
季節をくぐって赤く染まり
その長い旅路を思うとき
いとおしい物であるかのように
落ち葉をほうきではいて集める
何と別れたのだろう
このさびしさは
風が一吹き
もみじの葉が散っていく
はらはらと
別れの時が来たのだ
涙が落ちる
はらはらと
枝に葉が萌えいでた春に始まり
季節をくぐって赤く染まり
その長い旅路を思うとき
いとおしい物であるかのように
落ち葉をほうきではいて集める
何と別れたのだろう
このさびしさは
音もなく現われ
また音もなく消えていく
飛行機雲が好きだ
何も語らずただそこにあるだけの
その主張のなさが好きだ
見る人だけが見上げ
見ない人には知られない
その存在の希薄さが好きだ
それでいて
見上げれば必ず空にある
その確実さが好きだ
虹だとこうはいかない
あてにならない人は
虹のような人と呼ぶことにしよう
庭は狭いのがいい
歴史に残る名園は
広すぎて落ち着かない
猫の額くらいがちょうどいい
一本の樹木
景石がひとつ
苔が少々
後は白い玉砂利
猫がときどきくつろぎに来るような
そんな狭さがいい
もし広い庭なら
春の花が今が盛りと咲きほこり
次には夏の花が力いっぱい咲き続け
そのつらなりでは秋の花が余韻たっぷり咲き乱れ
そのまた次に冬の花が寒風に負けじと咲きこぼれる
一回りすれば
四季を味わえるような
そんなありもしない庭がいい
まことに坪庭こそが理想
二人ならんで腰かけて
ネコ以外ほかには
誰もいない空間で
木を見つめ
石を見つめ
互いの瞳にうつる
雲は流れていく
二人きりの完ぺきな世界
人が歩くのは
まっすぐの道
一直線だと安心していた
よそ見しながら歩いていても
側溝に落ちたり
ガードレールにぶつかる心配はなかった
寄り道だってしたいほうだい
しだいに狭くなっていき
車一台が通れるほどの狭さから
人一人がやっと通れる狭さへ
さらに狭まり
両側の石壁のあいだを体を横にして歩くと
なんと
次は綱渡りが待っていた
人生とはかくのごとし
のんきなのんきな中学生のころ
数学の時間に
直線とは幅のないもの
点と点を結ぶのだが
太さはありはしない
だから架空のもの
こんな話を聞いて
また心地よい
午睡におちいった
まっすぐとはこわいもの
直線とはおそろしいもの
三角でも四角でも
円でもなんでもいい
平らな地面の広がりならどこでもいい
安息の地はないものか
毎月、その日になると
決まって現われる高齢男性がいた
注文はホットコーヒー二つ
亡妻の遺影をテーブルに立てて
自分の前に1客
写真の前に1客
コーヒを置いてもらうのであった
店員がふしぎに思い尋ねてみると
その店に夫婦連れで
何十回となくコーヒを
のみに来ていたという
その習慣を忘れがたく
一人になった今も
老男性はやってくるのであった
店員は哀れに思い
もらい泣きするだった
冷めてしまったコーヒー1杯を残し
ゆっくりとした動作で
写真立てをしまい、
二人分の支払をして
店を出ていくとき
店員は後ろ姿を見つめていた
世界遺産が紹介されるテレビ番組を
見ていると
行ってみたいなとつくづく思う
行きたしと思えどもフランスはあまりに遠しと
詩に読んだ詩人の心境になる
もうひとつの世界遺産があると
言う人がいる
書物になった古典のことだ
時間貧乏の身としては
もうひとつの世界遺産を
めぐる旅に出るしかない
それとて読破するだけの時間と知性を
要するのだ
どちらの世界遺産もはるかに遠い
川は流れる
けれども
人は流れていいものか
流れるだけなら
何の苦労があるのだろう
生きるとは
川を遡上すること
流れることの正反対である
魚ですら川を遡上するのだから
散歩にいきたいわけではないのに
健康のためと無理やりに連れ出された
老いたるしば犬
道の真ん中で座ってしまって動かないことも
しばしば
飼い主も同じように年老いているので
ひっぱりもせずたたずむ
後ろ足をけがしたために
下半身を台車にのせることになった
前足と台車とで移動できるのだった
重病にかかり歩けなくなったしば犬
飼い主になでられながら
目をつぶるのだった
あのシェパードはどこへ連れて行かれたのだろう
獰猛な目と精悍な動きで人を見れば吠えたてた
認知症のお年寄りの家に
2頭のシェパードが飼われていた
その男性は毎日散歩に連れていった
認知症なので
自宅へ帰る道をおぼえていないのに
決まって帰宅を果たすのだった
そのわけを聞くと
犬が道をおぼえているので
帰宅できるのだという
犬に散歩につれていってもらっているようなものだった
シェパードはいなくなった
町には小型のかわいい犬が歩くようになった
かわいい顔 かわいい目
こうして恐ろしいもの こわいものが消えていく
ゆるキャラがあふれ 鬼の面すらやさしくなった
甘くやさしくささやく声が聞こえてくる
何もかもが砂糖にまぶされて
ソルトレークシティは
シュガーレイクシティに
いつか名前を変える日がやってくるだろう
その町では
真綿に首を絞められるように
甘い声が体にしみこんでいく
おお ハネートラップ
体はもはや自由には動かなくなるのだ
アドラー博士が夢まくらに立った
アドラーではない
アードラーと呼んでくれ
そこで
アードラー博士と呼ぶと
御託宣が下された
背水の陣をしかない限り
優柔不断とためらいがある
優柔不断とためらいがある限り
心のエネルギーは最高の力を
発揮できない
だから諸君は高い望みを達成することができない
そして
続きを語る前に
アードラー博士は去って行った