執着(平成29年2月22日)

今頃 どこで何してるやら

知るすべとてわずかなものしかないのだが

思わずにはいられない

執着を捨てよと言われれば

息を止めよと言われるに等しい

老境に至った身を嘆くことはないのだが

思わずにはいられない

今頃 どこで 何してるやら

矢切の渡し(平成29年2月17日)

今 渡るおびただしい人

今 渡らないおびただしい人

雨降る金曜の夜は

渦巻く群衆が川の両側にうごめく

それはふとしたはずみで決まってしまう

熟慮なんてほど遠い

刹那

刹那

いいではないか

 

 

手水鉢(平成29年2月12日)

夜ごと夜ごと気温は零下

手水鉢の水は氷を張る

氷のうえに雪が積もり

昼の温かな陽がさすまでの

淡い時間がすぎる

 

雪解けの道を老婆が歩む

スカーフをかぶり顔がかくれてしまう

残りの時間を生ききることへの

執念に満ちた顔つきを

誰からも顧みられず

誰にもさとられず

一心に

 

 

 

夜にふる雪(平成29年2月12日)

窓ガラスの外には

枠にへばりつく雪

部屋の中に

入れるものなら入りたかった

日々の営みの外側に

追いやってしまった想念のように

時折姿を現す

朝には光がさして

あとかたもなく消えていく

消えてしまうのは見せかけだけ

 

 

 

庭(平成29年2月1日)

古人は言う

庭ほどぜいたくな趣味はない

確かにそうだ 鹿苑寺

将軍の気まぐれが天から落ちる雫のように

池を塔を産みだした

気まぐれは今も人を呼び寄せる

人の波 人の波

 

広い庭はわからない

また古人は言う

狭さの中にこそ宇宙が宿ると

狭き庭の真ん中に置かれた一対の石

石はまことに不思議な物である