ベストコンディションの日
そんなときがあるのだろうか
きのうはからだがだるかった
きょうはやる気が足りなかった
明日はどうなることか
きっとベストコンディションの日は
やってこないだろう
ベストコンディションの日
そんなときがあるのだろうか
きのうはからだがだるかった
きょうはやる気が足りなかった
明日はどうなることか
きっとベストコンディションの日は
やってこないだろう
思い出した
食べたことがあった
北の町の場末の魚料理店で
その味わいはまったく思い出せず
ただ食べたことだけがよみがえる
入社試験があるわけではもちろんなく
面接試験も観察期間も何もなく
ある日をさかいに母子になる
お互いに相性を確かめ合ったわけではないので
育児がむずかしいのは当然だ
それでも何とか大きな破たんもなく
世間の母子はやっていく
育児が大層疲れるのは当然だ
子はたいていいつも恩知らず
ひとりで大きくなったような顔をしている
しかしそれでいいのだ
黒と茶と白
まだらの母猫が前足で
窓ガラスをたたく
山裾の町の音もない夜明け
外は寒かろうが
年中同じ毛をまとった体で
餌をねだる地域猫に
見かねた女主人が
前夜の食べ残しのさかなの
しっぽを与えると
子猫が3匹、すばやく寄り集まる
地域ネコにとって
朝食の始まりは幸福の始まりである
生きることは食べること
こんなにもシンプル
小さな部屋かもしれないが
朝日がさしこんでくる
古びた茶碗だが
そそがれた紅茶の色は美しい
ゆですぎて
半熟卵になりそこねたのだが
卵に向かって文句を言うわけには
いかず眉をしかめて
窓の外を見ると
母猫と目が合う
にっこりとはしてくれないけれど
関西のとある山の名前
六甲山 鉢伏山 円山
山頂はなだらかな傾斜
とんがった山などどこにもない
時間をさかのぼれるのなら
山ができた瞬間に立ち合いたい
山がとんがっていた時に
戻ってみたい
こんな言い伝えがあった
男子厨房に入るべからず
封建的 男女差別 女性蔑視
非難は雨あられと語られる
深い知恵があったとは誰も思わない
厨房では火のために熱がこもり、
片肌脱ぎ、もろ肌脱ぎが
当たり前
そんな中に男が混じればどうなるか
そうではなくとも
複数の人間が協力しあって
調理をするとき、同性どうしの方が
まとまりがいいはずだ
すっかり定着した
夫のお産立ち合い
赤ちゃんが産道をとおり
全身を現わすと写真をとって
涙を流し笑顔を輝かせる
生まれたばかりの児は顔をしかめて
泣いているのだが
母親は安堵する
子どもが無事生まれたことに
夫が良き父親になりそうな予感に
月日が過ぎて
4人に一人夫は家庭を顧みなくなる
3年たてば別の人
男の涙を信じすぎてはいけないよ
空に天井がもしあれば
さぞや気分は悪かろう
どこまでが空で
どこからが宇宙か
その境界は知らない
それにしても
天井なき空の深さ
男は
一階あたりは6畳の広さだが
10階建てどころか
もっと高い塔の家に住んでいた
ふだんは1階、
ときどき2階、
たまには3階
そんな住み方だった
4階以上は行ったことがなかった
台風の過ぎた日
あまりに空が美しく
男は
上の階へと昇り始めた
我が家なのだが
知らない空間に目を瞠るうち
だんだん高く高く
下界を見下ろす階に届いた
やめればよかったのだが
さらに高く昇って行った
男は降りることを忘れ
住民は男の存在を忘れた
同じ母ネコから生まれた三匹の子猫
エサ皿に顔を押し付け合って
何やら話し込む
おなかがいっぱいになるまで
食べるって
幸せな気分
確かにネコの餌箱はすでにカラッポ
お天気がいいって
幸せな気分
確かに空は青く澄んで晴れている
あんなふうに顔を寄せ合って
日差しに目を細めて
きょうは恐ろしい大型ネコは
まだ現われない
子ネコにとって
こんないい日はない