カフェにて(平成26年8月2日)

きのう午後の空いた時間

仕事場近くのカフェへ足が向く

離れた席では中年女性が数人

大きな声で話し合い

私はねえ、今度、パレスティナへ

特攻隊に行くんや

様子のいい人が語る

あんたこないだ右肩を骨折したばかりじゃないの

なんてぶっそうなことを言うの

そうなんよ まだ右腕が上がらないけどね

そんな体で何の役に立つの

きかれたくだんの女性いわく

砲弾が落ちてくるとき

こどもの体を私の体でおおうのよ

そうすれば被弾は私の体で

食い止められる

これが私の特攻隊なんよ

話題は次に介護のぐちへと

移っていった

 

 

椅子の消えていく街で(平成26年7月30日)

鉄道駅の昼下がり

改札口の近くでは

重い荷物を片手に

高齢婦人がひとり

人待ち顔でたたずむ

見渡しても椅子はなく

鳥の止まり木ふうの

椅子もどきが3つ

金属製の味気ないしろもの

このごろの鉄道駅ときたら

どこもかしこも椅子がきらいなようだ

人の体は変わらないのに

椅子の激変は目をおおうばかりだ

待って待たされ待ちくたびれて

駅に電車が止まるたび

人恋しさはつのりゆく

インスタントコーヒー(平成26年7月28日)

ネッスルのインスタントコーヒー

出始めのころに飲んだのが

初めての

コーヒー体験

長い年月がすぎて

レギュラーコーヒーをいれるようになった

たいした手間ではないと思うのだが

豆をひく

湯をわかす

湯をそそぐ

これだけのことなのだが

現代人は忙しい

マラソンランナーでもない人までが

歩きながらペットボトルから

水をのむ

立ち止って飲み物を口にすることすら

しなくなったわたしたち

(むせても知らないよ)

 

 

アルゼンチン(平成26年7月28日)

ワールドカップは終わった

アルゼンチンよ

またの名

いとしのアージェンタインよ

きみの名は

銀 シルバーである

だから準優勝が妥当だったのだ

けれどもフランスに行けば

きみは金の代名詞だ

そんなきみに優勝させたかった

(国名を銀と名乗るとは

まさか守銭奴だらけの

国民でもあるまいて)

夏炉冬扇(平成26年7月25日)

夏炉冬扇といえば

夏が来たというのに

まだ暖炉をしまっておらず

冬が来ているのに

扇を取り出したままにしてある

万事することが遅すぎる人

そういう人がいる

けれども反対にせっかちな人も

世の中にはいて

夏が来たばかりなのにもうはや

冬したくを始めて暖炉をとりだし

冬が来たとたんに

夏の準備に扇を取り出しておく人

どちらかに傾きがちなのが人情というものか

 

神戸とパレスティナと(平成26年7月17日)

神戸は海に沿った細長い町で

6~10×50キロメートル

パレスティナは

6~10×40キロメートル

どちらも長方形の

地形は相似形である

人口は神戸150万対パレ160万

昭和19年

神戸を空襲が焼いた

亡母が語っていた

家が焼けるほど悲しいことはないと

野坂昭如『火垂の墓』もまた

神戸空襲を描く

2014年7月

パレスティナにイ軍が空爆を繰り返す

焼ける家、死傷する市民

神戸とパレスティナとは

相似形である

転居通知(平成26年7月16日)

近くにお寄りの節は

お立ち寄りください

こう結ばれている

ひな形とおりの転居通知

夜逃げでもなく

零落でもないことが

こうしてそっと伝えられる

人には言えぬわけがあって

転居する人も多かろうに

 

 

三行半(平成26年7月16日)

三行半はいけないものと

相場は決まっている

説明不足

ぶっきらぼう

江戸の離縁状に対して

非難ごうごうである

かといって

いたらぬ点を

事こまかに記されては

再婚にひびくというもの

そこはさりげなく三行半

何と何と

粋なはからいではないか

江戸の知恵にほかならぬ

天邪鬼な一日(平成26年7月13日)

天気予報は雨なのよ

君は言うので

傘を持たずに外出した

財布を忘れ

ビニール傘を買うこともできず

雷雨にうたれてぬれねずみ

 

きみが海が好きだというので

ぼくは山が好きだと

言ってしまった

 

ほんとうはね

ぼくも海が好き

そして

きみが好き