逆立ち(2019年8月2日)

前かがみになったときに

胃の中のものが口から出てこないのは

なぜだろう

逆立ちしたからと言って

嘔吐しないのはなぜだろう

それはね

胃と食堂の境目には噴門部と

呼ばれる関門があって

ここが閉じられているからなんだ

もし噴門がなければ

大変だぞ

 

もうすぐ卒業という小学校6年生の終わり頃

どういうなりゆきか

クラス担任の先生に

逆さづりにされた

ここで騒ぐときっと面白がるだろうと

不思議と冷静に読んで

素知らぬ顔をして

逆さづりされたままにしていた

そうすると案の定

まもなく

解放された

帰宅して父にも母にも妹にも

言わなかった

やはり屈辱だったからだ

「おまえこの頃太ったな

それじゃ、ひとつ、体重を測ってやろうか」

こんな流れの、とんでもない成り行きだったと思うのだ

このことを今思い出すのは

今時の学校と父兄との関係の中では

決して許されることではないと思うからだ

教師にとっては

古き良き時代

生徒にとっては

古き悪しき時代だったのである

 

目くそ鼻くそ(2019年8月1日)

今日も気温が上がりそうだ

予報では37℃(京都)だという

午後の日差しを思うと気持ちがめげる

朝のうちに出かける用事はすませておこう

まだ8時前だ

そこへ

東京の知人から電話がかかってきた

今月中旬に帰省するから

時間があったら会わないか

いいよと二つ返事で承諾した

ところで

京都は暑いところやなあ

こっちは涼しいで

へえ何度なん

35℃や

急に関西弁になって話が続く

きみはからだが弱いから大事にせなあかんで

水ようけのんどるか

など大きなお世話

しかしだ

35℃が37℃をあわれむのは

目くそ鼻くそを笑う

いや

目くそ鼻くそをあわれむ

だな

ともかくも

目くそ鼻くそには気をつけないとね

一人暮らしはなおさらだ

外出前に点検してくれていた

妻はもういないのだから

暑いだけなら(2019年8月1日)

仕事場から近いのと
コーヒーがおいしいのとで
ときどき行く喫茶店がある

昨日は暑さにたまりかねて
午後の空き時間に訪れた

シニア二人の男がしゃべりあっているのが
聞こえてきた

「俺んとこは女房が病気でよう、
3度目の入院をしてるんだ。
いつ良くなるかと聞いても
医者は何も言わない」

「そりゃたいへんだな。見舞いに行ったり
 しなきゃならないんだろう」

「見舞いに行くのはわけないさ。俺は
ひまだからね。帰り際がつらいのさ」

「そうだよな。暑さだけでもつらいのに
きみは病人を世話しなきゃいけないから
なおつらいよな」

「本当にそうさ。暑いだけならがまんすれば
いいだけのことだ。そのうち秋が来るんだもんな」

こんな話を聞きながら
今ここにいる夏はいずれは終わって
秋に席をゆずる
その確実さにみょうに感心するのだった

投票日(2019年7月22日)

妻「投票は何時ごろに行こうかな」

夫「そうだな、早めに行こうか」

妻「9時頃にしようよ。その前に洗濯を終えておくから」

夫「どこに投票しようかな」

妻「どこに入れたらいいの? 今回は」

夫「〇〇党がいいんじゃない」

妻「じゃあ、そうする」

自転車にめいめい乗り、3分ほどの

小学校の体育館へ向かうと

土足対応のシートを歩き

鉛筆で書く

体育館をあとにしてふたたび

自転車に乗って家路につく

投票日の朝はいつもこんな感じですぎるのであった

 

妻が逝ってしまって初めての投票日を昨日迎えた

投票日の翌日、つまり今朝になって

朝刊を開いたとき

投票に行かなかったことに気がついた

投票日の朝のいつもの語らいがなくなってしまったせいだろうか

上手と下手と(2019年7月21日)

じょうずにしないとならない

こどものころから
言われ続けたせいだろうか
じょうずにできないことを
いつしか避けて避けてくらすことが
習慣となってしまった

へたでもいいじゃないか
やってみればいい
それだけのこと

こんなシンプルなことに気づくには
遅すぎたのだろうか?
そんなことはないよね。

夏の楽しみ 夏の苦しみ(2019年7月17日)

暑くて暑くてとぐちを言っていたら

心頭滅却すれば火もまた涼し

と言い返されてしまった

 

暑さを感じなくなるほど熱中するものが

あればどんなにいいだろう

 

そういうものがないときだって

夏の楽しみというものがある

 

たくさんまいておいたアサガオの種が

花をつけ、毎朝,その数を数えた

朝に咲いては夕にしぼむ

毎朝咲き続け、数え続け、

夏は終わった

 

夏の京都(2019年7月15日)

楓の葉っぱはまだ新緑のみずみずしさを
保っている
地面を見ると苔が雨上がりにはあざやかな
緑色に変わる

もう三月もたてば、楓は葉を赤く染める
その正確さはコンピュータ制御のようだ

赤く染まった葉が散ると、枝のかたちが
あらわになる
空が広くなる

もめごとの多い家族(2019年7月2日)

話を聞かない、聞く気がない

口を開けば、ちがうで、ちゃうで

ときには

何言うてるねんあほと罵声を放つ

そりゃあ、もめますね

しまいには誰も口をきかなくなった

 

開口一番

ああせい こうせい

相手がいやがろうが何を言おうが

ああせい こうせい

そりゃ気持ちいいだろうさ

命令する快感は止められない

うちは正しい

正しいことを言うたらあかんのか

ますます増長し

ああせい こうせい

そして誰からも相手にされなくなった