夏が今ほど熱くなかったころ
スマホというものがまだあなかったころ
そんなころの話
高校生になったばかりの少年はクラブ活動をせず
授業が終われば一目散に帰宅
海へ行き 浜辺を走り 波に向かって小石を投げる
ある日 岩陰に人魚を見た
日が暮れて家に帰ると
妹が迎えてくれた
「海で人魚を見た」と兄が言うので
妹は「私も見たい」
次の日 一緒に見に行くことにした
岩陰の端に立つと 人魚が見えた
兄と妹を見つけて こちらへいらっしゃいと手招きをする
岩場を慎重に歩き 人魚の背中につかまった
人魚は海面を泳ぎ 兄妹は感性をあげた
また明日も海へいらっしゃいと人魚は言って 海の底に消えた
次の日
兄妹は人魚の背に乗り海面を散歩
そして
二人はもう家には帰らなかった