大寒(平成27年1月20日)

去年の秋に生まれた子ネコは

まだ母ネコから離れず行動をともにしている

母ネコは風から子ネコを守るように

抱きしめていた

母ネコ「こないだは小寒。

今日は大寒だからね。特別に寒いのよ」

子ネコは母ネコにしがみつきながら

「それなら中寒はいつなの?」

母ネコ「中寒ってないのよ。」

「おおさむこさむ」と母ネコは

ひもじいおなかを忘れたかのように

歌って聞かせた

3日も食べ物にありつけず

疲れを見せ始めた子ネコは

じっと耳を傾けた

夢と悪夢と(平成27年1月19日)

かの荘子は夢に蝶となった

この男は夢でどろぼうになった

毎夜毎夜どろぼうを働く夢を見た

とうとう男は自首することに決めた

寝静まった町の警察署へ

男は出かけ、罪を告げた

応対の係官は眠そうな目をこすりながら

被害届もないので

あんたはどうぼうを働いていないと告げる

そのとき男は驚いた

そんなばかなことがあるものか

夜が明けたらもう一度自首しよう

日が昇り町に活気が戻る頃

男は再び署を訪れ罪を告げた

十分に眠りをとったあとのはつらつとした係官は

やはりあんたはどろぼうを働いていないと

言うしかなかった

署から帰る男の目に

朝日を浴びた町のたたずまいは

見たこともないほど色彩豊かであった

 

 

新年の決意(平成27年1月11日)

わたしのかわいいこどもたち

お願いだから

新年の決意など立てないでほしい

よし立てたとしても

三日ぼうずで

終わらせてほしい

いつまでも

かたわらにいてほしい

こどもたち

大志なぞ抱かないで

今のままで

何も変わらないでいてほしい

年末年始魔の時間帯(平成27年1月10日)

祝日、イブ、クリスマス

晦日、大晦日、正月、三が日

親密な時間が始まり

一族がうち集い

賑やかな晴れの時間が

飛翔する

愉しみと懐かしさのなかにとけていく時間だ

ありふれた日常を離れ

魔の時間がしのび寄る

生きていく羅針盤が止まり

方向感覚が失しなわれる

狂気 憎悪 悔恨

魔の時間に注意あれ

 

 

言い間違いと聞き間違い(平成27年1月8日)

思えばあの頃

楽しい日々だった

言い間違いやら

聞き間違いやら

笑い過ごした日々だった

 

主はきませり

皺きませり

 

骨粗鬆症と言えず

こつこしょう症

聞いた方では

骨胡椒症

塩胡椒少々

やっぱり

骨故障症の間違いか

 

思えばあの頃

楽しい日々だった

笑って過ごした日々だった

自律神経出張症ではないのだよ

自律神経失調症なんだ

 

初雪(平成27年1月2日)

元日夜に雪が降り始めた

朝目覚めたら 銀世界

こどもらは雪だるまを作る

おとならは道路の雪かきに忙しい

ふんわりと田畑に積もる雪は

陽を浴びて解けるような輝くような

あわいの時にいる

空は青く深く澄みきっている

 

 

 

除夜の鐘(平成26年12月31日)

小倉山中腹にある古刹では

中年に耳を患い全聾の寺男が

除夜の鐘行事をとりしきる

かがり火をたき、京中心部の明かりを

見下ろし、参拝客がひとつ

ひとつまたひとつと鐘をつく

風雨予報のこの夜に

挙行できるか朝から気をもんでいた

予報どおりに

夕方に降りだした雨

豪雨の夜にもやらねばならぬと

住職が命じた

異常気象が日常になり

天候が人の暮らしを変える

異常気象に適応できる者だけが

生き延びる

適者生存

そのとき

強い者は絶え

弱い者が耐える

弱者こそが生き延びる

小倉山古刹の鐘の声

強者必滅

弱者生存の響きあり

 

編み物(平成26年12月28日)

秋の夜長の日から

編み物にとりかかり

すでにマフラー

セーター

手袋

完成し

冬の到来を待つばかりとなった

寒波が初めて来たとき

母の顔がほころんだ

きょうこそ

わが作品の出番が来たのだ

ところが

こどもは風の子

半袖で遊びまわるのであった

もっともっと強い寒波が来るように

母は願うのだった

そして観測史上最大の寒波が来た

今度こそ

セーター マフラー 手袋

全部を身に着けて学校へ向かった

帰宅したとき

元の半そで姿

友だちにあげたのだとさ

 

冬の詩(平成26年12月27日)

もし歌を詩を

季節ごとに分けていくと

春の詩が一番多く

その次が夏の詩

そして秋の詩

最後が冬の詩になるのだろうか

たしかに冬は歌う心が冷え切ってしまう

だからといって

冬の詩を歌わなければ

ますます歌心は枯れ果てるだろう

街路にも寺院の庭園にも

雑草すらも枯れ果てて

冬枯れの荒涼とした風景は

歌うにあたいするのだろうか

これ以上落ちることはない

零落の季節は美しくないのだろうか