さびしい風景が好きだ
その中にたたずむさびしい自分
しゃがみこみ
立ち尽くし
また
しゃがみこんでいると
いつしか調和が訪れて
寂しさはもうどこにもない
さびしい風景が好きだ
その中にたたずむさびしい自分
しゃがみこみ
立ち尽くし
また
しゃがみこんでいると
いつしか調和が訪れて
寂しさはもうどこにもない
人と人とは
二言三言
あるいは
四言五言と
大切なことが凝縮された
言葉を交わせば通じる
それが会話というものだ
言葉がいらないとは
こういうことだ
映画のなかの俳優を見てごらん
彼らの会話はいつも短い
午後3時
小学3年生の下校時間である
にぎやかに歩道を練り歩く
オレ路チューしたいなー
ヘンターイ
いっときのざわめきが潮のように引き
ふたたび街路は静まった
路チューする人
しない人
路駐する人
しない人
みんなちがってみんないい
はずなのだが
見ていると胸が熱くなる
そんな路チューを
してほしいものだ
高校近くのパン屋さん
昼になると制服姿で買いに来る
若い食欲が弾けんばかりだ
クロワッサンに
カレーパン
ツナサンドに
焼きそばパン
店を切り盛りしているのは若夫婦
自前の店舗を持とうと懸命に働く
⑴才になるこどもがいて
歩き始めたばかり
高校生がまばゆく見える
うちの子があんなに育ってくれるか?
なかに1人
憂い顔の女子生徒
そのむすめはいつも
カレーパンを買っていた
父親がカレーパンを好きだから
思い出すのだ
父親は今病気で入院している
週に一度会いに行く
その日を待っているのだった
私が眠るのではない
眠りが私に訪れるのだ
私が目覚めるのではない
目覚めが私に訪れるのだ
私にできることは
ただ待つことだけ
大事なものが訪れるのを
ひたすらに待ち続けるだけ
夕焼けは美しいと
人は言う
それはあらゆるものをおおいかくす
降る雪が町をすっぽりと
包み込むように
あらゆるものをおおいかくす
日々の悔恨も
失望も欲望も
だから夕焼け時は安らぎのとき
花鳥風月を歌わない
なぜなら
彼らの美はすでに完ぺきで
私の詩を必要としないから
花鳥風月は歌えない
なぜなら
彼らの美しさに寄りかかることになるからだ
花鳥風月は歌わない
彼らは億年を超えて生き続けているから
一代限りの私とはすでにちがうのだ
美しいとは思われていないもの
誰からもかえりみられないもの
失われゆくもの
きえていくもの
私が歌うのはそんな世界
横断歩道の手前で
立ち止っていると
反対側に自転車に乗った
コートをはおりもしない
高校生カップルが目に入った
信号が青に変わり
カップルはゆっくりとそれぞれの自転車をこぎ
なめらかな動きでこちら側へ渡り
ふりかえる私の視界から消えていく
言い合わせたような
シンクロナイズされたふたりの身のこなしに
目を奪われた
午後3時
気温は8度
風はなく
小春日和の
放課後の
のびやかな時間が
二人に流れていた
遠く離れたフランスの
遠い時代に生まれた
サルトル少年は
夏のバカンスで避暑地へ行き
他の少年が虫取りに興じるあいだ
部屋にこもってひとり
百科事典を読みふけった
彼の心をとらえて放さなかったのは
この世界の成り立ちを知らずにはいられない
衝動であった
百科事典に満足したとは思えない
ますます渇望を抱いたことだろう
渇望をいだいた者だけが
愛知へと至る道を歩きはじめる
そのような人物であった