うるわしの5月(平成26年5月4日)

早朝からおだやかな天気の予感があった

風はそよ風、空は晴れ、気温あたたか

うるわしの5月そのもの

ドイツ語ではシェーン・マイ

戸外に出て陽に当たっていると

心が安らいだ

町一番の陰気な人も

家から外へ歩み出た

西に傾いた太陽がいつまでも

沈まないでほしいと思った

こんな天気の日は一年をとおして

十日あるなしだろう。

6月はジューン・ブライド

きっと一日くらいは夕空が明るく晴れて

美しい日があるだろう。

月に一度のとびきりの

気象の美しい日

生きる理由がここにある

 

 

 

真夜中の結婚届(平成26年5月2日)

宿直の役所の職員は

初めての仕事の夜

どんなカップルが夜中に

届を持ってくるのだろうかと

いぶかしく思いながら

硬いソファに座っていた

 

自分のうちなら今頃

缶ビール片手にテレビとあいなっているころだ

ああのみたいな

 

午前0時を回る頃

二人連れの男女が来た

あまりのみすぼらしい服装に

ちょっとお恵みをさしあげなくては

ポケットに手を入れて小銭をさがし

宿直員はこの新婚カップルをあわれんだ

 

届を整理箱にしまい

さっきまで座っていた硬いソファに

戻ろうとしたとき

帰っていくカップルの後ろ姿が見えた

 

後ろ姿はふたりの間の愛を

真昼のおだやかな光のように

はなっていた

 

宿直員は思った

あれが愛なのだ

愛が人間に宿る時

あんな姿になるのだ

 

貧しいために

夜おそくまで二人して働き

結婚式も披露宴も

指輪も花束もない

ただ愛しかない

 

夜が更けて

町は静まり

亡妻がしきりに思い出された

宿直員は眠りに落ちていった

 

 

17歳(平成26年5月1日)

~藤圭子にささぐ~

15,16,17と

どの顔も美しい

顔の造作がいかにあれ

どの顔も輝かんばかり

15,16,17と

生存競争が行なわれ

勝つ者、負ける者、

脱落する者、頂点を極める者

過酷きわまりない季節

15,16,17と

その頭では知らないこと

18,19と

ますます生存競争は激しくなる

すさまじい喉笛の切り合いが始まる

けれども

ますます人の顔は美しくなる

 

80歳女性の静かな愉しみ(平成26年5月1日)

一人目の人は言う

もうね、育児も終わったから

すいかを育てるのが私の愉しみ

ネットをかけたり、袋をかけたり

こんな大きなすいかができるのよ

運ぶのがたいへんだけれどね

これがいちばん愉しいよ

二人目の人は言う

私はコーヒーを入れるのがうまいのよ

半プロだもんね

友達が来たら

神戸の豆屋から取り寄せた豆で

入れるのさ

毎週1回取り寄せる

京都の豆は使わないよ

三人目の人は言う

だーれも人は来ないよ

それが私はいちばん好き

庭に出て、来る日も来る日も

草引きする

部屋には大きな犬がいるよ

私はこわいので

犬は言うことをよく聞くんだ

海の見える丘(平成26年4月29日)

強い雨の降り続くこんな夜に

平和な心でいることはむずかしい

おまけに今夜は亡父の納骨をすませた夜だ

昼前の一瞬の晴れ間に

経をあげに正装で現れた僧侶を見たとき

目がしらが熱くなった。

葬儀の日はまた雷の鳴る豪雨

車のフロントグラスの前がみえないほどだった

そのときにも同じ僧侶が経を唱えた

丘の上にある墓園から明石海峡が見える

明石海峡大橋の巨大な柱が白く日に輝く

鶯が鳴く二度三度

亡父の好きな鳥だった

 

 

一代限り(平成26年4月28日)

神戸元町三宮

昭和20年以前から今に続く店は

ひとつもない。

昭和20年以降から今に続く店もまた

ひとつもない。

これは衣料品店、飲食店、小売店など

すべての店が一代限りということだ。

一代限りが寄り集まって町の賑わいが継承されていく

考えれば、人そのものが一代限りである。

自分というものは一人しかいない

一代限りがより集ってこの世の賑わいが作られていく

ならばこそ一夜切りなんて言わないで

連日連夜遊ぼうではないか

遊びをせんとや生まれけん

たわむれせんとや生まれけん

遊ぶこどもの声聞けば

わが身さえこそゆるがるれ

 

京の山々(平成26年4月27日)

まもなく4月が去っていく

日付が変わろうかという時刻が来た

急に4月がいとおしくなった

行きて帰らぬ4月の日々よ

京の山はおしなべて山頂が平らだ

風雨のためなのであろう

どの山もどの山も山頂が丸く見える

嵯峨とは急峻な山という意味である

平安のころはそうだったのだろうか

丸い山には不満である

神戸六甲山もやはり丸い

融けはじめたソフトクリームのようだ

作りたての角のとがったソフトクリームの

ような山はどこにもないのだろうか

萩の木(平成26年4月27日)

萩は春に新しい葉を出し、

冬には枯れる。普通の落葉樹だ。

成長が早く、夏に一度、根っこから

切り取る。その後また急成長して

秋に花を咲かせる。夏に切り取らないと

背丈が高くなり2メートルを超える。

低木で花を楽しむ木なので、

夏には一度切るわけだ。

今朝、遅いのだが、去年の冬に刈れた幹と

枝を切り払っているとき、根元を見て

発見したことがある。

萩は根を四方八方に伸ばして、

伸びていった先で、幹を伸ばして

一株になる。放置しておけば萩は

一面に広がりそうだ。

こんなことは

植物にくわしい人には常識だろう。