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ノーベル賞作家川端康成は
末期の目をもって書けと
常々弟子に語っていた
タクシーに乗らなければならなくなり
流しの車に乗り込んだ
運転手は私が精神科医だと知ると
問わず語りに話し始めた
亡くなった娘は拒食症で25年間
自宅にひきこもり寝たきりだった
食事は米を10グラム野菜を15グラムと決めて
測りで毎回測るのだった
血糖値が下がり続け治療を拒否し
いよいよ息がたえだえになった
母親が救急車を呼び
病院に搬送されたが
回復することなく死亡した
40歳をこえたばかりだった
娘が救急車のストレッチャーに乗せられ
父親である自分のほうを見たとき
その目には憎悪が浮かんでいた
私はいいんです
あの目を忘れられないけれど
娘の死と私に向けられた憎しみを
私は受け入れられたのですよ
憎しみに見えたものの奥には
愛おしさと切なさに満ちて
先立つ不孝を詫びるような
目だったのです
こんな話を聞きながら
車酔いに苦しみながら
クルマは目的地に着き
私は下車した
みんなちがってみんないい
ピカソにダリにボッティチェリ
レオナルド・ダ・ヴィンチにミケランジェロ
琳派に伊藤若冲に狩野永徳
横山大観に東山魁夷
みんなちがってみんないいとは
彼ら天才のことだ
きみの稚拙な絵のことではないのだよ
友だち百人できるかな
なんて威勢のいい歌があった頃
そんな時代に生まれなくてよかった
としみじみ思う
友だちがひとりいて
毎日いっしょに下校する
肩をくんだり
水たまりで遊んだり
別れるところまでくると
いちもくさんに走って帰る
小さな友情
やがて友だちは転校していき
ぼくはひとりでまっすぐに帰宅する
たったひとりの放課後の時間
年齢学歴経験不問
ついでに病歴不問
もひとつ
人間性不問
やる気のある人
真剣に働く人
周りに配慮のできる人
求む
酒を長い間、置いておくと酢になり変わる
愛が真珠だとすれば理解は模造真珠である
わたしがほしいのは愛
それが与えられないのなら
せめて理解がほしい
そうだ
酢はいらない
酒をくれ
そうだ
理解はいらない
愛をくれ
そうだ
ほしいものをくれ
パウロの愛の言葉
愛は寛容なもの、
慈悲深いものは愛。
愛は、ねたまず、高ぶらず、誇らない。
見苦しいふるまいをせず、
自分の利益を求めず、
怒らず、
人 の悪事を数え立てない。
不正を喜ばないが、人とともに真理を喜ぶ。
すべてをこらえ、すべてを信じ、
すべてを望み、すべてを耐え忍ぶ
あの人はどうしているのだろう
近頃見ていない
会ってもいない
胸騒ぎを感じ始める
何かあったのではないか
事故だとか病気だとかあるいは
別のもっと重大なこと
不安がわきあがり
メールか電話かしなくては
いてもたってもいられなくなる
その瞬間
待ち人は戸口に現れるのである
こういうことが度重なり
別の場所にいる人と心がつながっているのを
ますます確信するようになった
五郎丸はかっこいいな
キックする前の神妙なしぐさから
一転繰り出される強力なキック
放たれた球は約束されていたかのように
二本の棒の間を飛行する
まったくため息がもれるほど
かっこいいやつ
それに比べて外科医のオレの
手術前のしぐさはお世辞にも流麗とは
いえない
いったん始めた手術は終えなければならない
失敗は許されないのだ
五郎丸はいいよな
失敗が許され同情もされるのだから
携帯メールにパソコンメール
ラインという手もある
まことに世はメールの時代
街中車中レストラン居酒屋病院塾学校
ありとあらゆるところで
人はメールをうち受け取る
これが今、世界で起きていること
言いも悪いもない
だってそうなんだから
電話がかくして輝き始める
電話で話し合うのは決まって親しい者の
間だけとなっていく
仕事は別だが
あなたの声が聴きたくて
何の用もないのだけれど
あなたの時間を奪うのだけれど
それでもあなたの声が聴きたくて
互いが同じ時を生きていることを感じたくて
かけてしまった
運命を作るのは人である
人は自由に生き自分の運命を
作り上げていく
けれど
運命が人を作ることがある
自分のせいではない何事かがおこり
起きてしまったことに自分が従うしかない
かくして
人が運命を作り
運命が人を作る
後者の道は前者の道より
はるかに険しい
運命を受け入れるとき
人は変えられてしまうのだから
変えられてしまうことに
抵抗する者はそこで終わる
不運をかこつことが人生となるのだから
草ぼうぼうのだだっ広い庭
放置され
がれき、枯れ木、枯草に
足をとられる
この庭の草ひきをたった一人でやり遂げないと
ならないのだ
順序と段取りと
老婦はしばらく考え込んだ
誰の指図も受けず
自分の体力を考え
気ままに進められる作業に
やる気がわいてくる
昼食の弁当も水筒も用意している
空は晴れて
ただ一人