都会から離れた農村地帯の奥に
その紅葉山はあった
交通不便な所だが
それが幸いして混雑せず
傾斜面に腰を下ろせば
背後の紅葉林と下界が
遠望できた
30年前から一人の男が
楓の苗木を植え続け
千本を超える林に育った
自然落下した種が育ち
男の手を借りなくとも
林は成長していったのだった
都会から離れた農村地帯の奥に
その紅葉山はあった
交通不便な所だが
それが幸いして混雑せず
傾斜面に腰を下ろせば
背後の紅葉林と下界が
遠望できた
30年前から一人の男が
楓の苗木を植え続け
千本を超える林に育った
自然落下した種が育ち
男の手を借りなくとも
林は成長していったのだった
人間の条件をただひとつあげてみよ
こう言われたら
きみは何をあげるだろう
しがない板金屋のおやじでさと
自嘲気味に語る
この男は
もらい泣きのできる人と
答えた
学問があればそういう人になるわけでもなく
学問がなくてもそういう人がいる
学問は関係がなさそうだ
もらい泣きのできる人
宮沢賢治ではないが
そういう者にわたしは
なりたい
松の木のにおいを思いっきりかぎたい
松脂が枝や幹ににじみ出ている
そんな松の木の香を胸いっぱいに吸いたい
手に付着すればかんたんにはとれない
そんな脂のにおいが好きだ
松林を歩くと、香りに惹かれて
どんどん歩いて行ってしまう
浜辺では潮の香
ふたつのにおいに
心が満たされる
どこまでも歩き続けたい
晩秋だったので
ムーミンは落ち葉の掃き掃除に
朝早くから取りかかった
掃いたあとにすぐまた落葉し
いっこうに終わらなかった
離れた所で大工仕事をでしている
パパのところへ行って
「お父さん、幸せの公式ってあるの」
ときいた
ムーミンパパは手を休めて
「それはあるさ
わけもなく幸せになってしまうことさ」
風が吹き始め
飛ばされていく落ち葉を
ムーミンは目で追った
時
それは命そのもの
あなたの
わたしの
時
それは愛のこと
与えるもの
与えられるもの
時
それは宝物
奪ってはいけないもの
奪われてはならないもの
時
それは育っていくのに必要な時間
急ぐことはできない
短縮することはできない
時
それは惜しまなくてはならない
心そのものだから
時
それは時計で測られる
腕時計をはずしてはいけない
けれども
測りすぎてはならない
時
それは忘れなくてはいけない
生そのものだから
時
それはともにすごすもの
あなたとわたしの
二人の時
時
たとえ離れていても
二人の時は
シンクロナイズしあう
消極的な身の処し方がここに極まる
反面で
波乱を避ける身の処し方とも言える
年齢を重ねれば
誰しも
見ざる言わざる聞かざるに
たどり着く
寄り添って
砂浜を歩き
パラソルの下
並んで座り
オブジェのように
動きが止まったままの二人
それは確かな生の時である
君には
確かに
創造の才がある
想像の才もある
けれども
クリエーターになってはいけないよ
型にはまった仕事
文字を転記するような
そんな仕事に
君ははまりこまねばならないよ
いたちといたち、雄と雌だったので
たちまち夫婦になり
あっという間もなく
仔いたちを産んだ
仔いたちは一度に二匹、三匹と増えるので
ネズミ算式を越えて
いたち算式に倍加していった
かくして
天井裏はいたち達の牙城となり
大音響をとどろかすのだが
家主はいっこう平気で暮らしている
彼は成人してから難聴となり
外出時以外は補聴器をつけない習慣だったので
いたち達の存在にはつゆ気づかず
穏やかな目をして
庭に来るスズメやハトを見つめるのだった
初めてふたりだけで会った日
公園の散策中に小雨が降りだした
傘はひとつ
わたしの手の中に
自分だけがさすのも気がひけて
かといって
あなたにさしかけるには勇気がいって
わたしは傘を握りしめたまま
あなたに二人でさそうと
言ってほしかった