理解と誤解(平成27年10月27日)

初対面の人同士

にこやかに和やかに

何やら楽しげに語らう

貴重で得難いときである。

けれど

彼らの間にあるのは友情と誤解

そして誤解はきまって美しい

誤解から理解にいたる時

真実はにがい味がする

人はふたたび孤独にひたり

美しかった誤解の時間をなつかしむのだ

所有と所属(平成27年10月25日)

所有することは人にとって必須である

何から何まで人は所有せんとする

所属することは人にとって必須である

うわさ話の仲間に加わりグループを作り

人は所属せんとする

広大無辺の世界にあって所有できるものはわずかの物

わずかの物になぐさめられて

人は孤独を忘れるのだ

食卓の風景(平成27年10月14日)

勉強机に事務机

机の種類は数あれど

食卓が一番好きだ

これから始まる食事の予感

食べ終わった後の満足感

わくわくして待ち

しみじみと余韻を楽しむ

そんな空間

それだから

勉強机に事務机なんて使わずに

いつも食卓ですませてきたのさ

食卓に向かって座ると

しみじみと懐かしい

父母や妹と顔を見合わせていたあの頃

 

約束(平成27年10月10日)

今日と同じように明日が

続くことは約束されていない

それを人は知っているのだけれど

誰も口にしない

危うい世界で

人は約束を求めるのだ

あたかも一夜ぎりの旅を

くりかえす旅人のように

二日と続けて泊まることはできないのに

 

明日は来るの(平成27年10月10日)

夜になり寝る時間が近づくと

「お母さん 明日は来るの」と

5歳の女の子は母にたずねるのだった

「ぜったいに明日は来るからね

心配しなくていいのよ」

返事を聞いて女の子は安心して

眠りに落ちるのだった

母は知っている

明日という日が来ないこともあることを

それは母と永訣の朝

母と会える明日が二度とこない日

自分の娘には胸に秘めて言わないのだけれど

一瞥(平成27年9月20日)

なすべきことは終わった

ひまひまに

人もうらやむ高級外車を駆って

遠出を繰り返す

旅は気ままに一人枕

歩道と対向車から

向けられる一瞥

称賛 嫉妬 軽蔑 憧れ

あらゆる感情がその瞳にこめられる

ほんのときおり

若い女と見間違えて

早合点の若者 紳士の

求める視線がたまらない