萩の紅白(平成26年9月21日)

紅白の萩の花

楚々とした可憐な花

名まえに似合わず繁殖力は旺盛

年に2回開花し根は四方八方に広がり

行きついた先で一群れの萩となる

放置されれば数年を経ずして

萩の林に成り代わる

深夜未明の分娩室(平成26年9月18日)

音が消えてしまったような

深夜未明の分娩室で

しずかにしずかに

ゆっくりとゆっくりと

赤子が産道をくぐって

頭から現れる

全身が外に出ると

声をあげて泣く

泣いているのではない

呼吸しているのだが

あまりに激しい呼吸は泣声になる

そばに二人の婦人がいる

一人はうれしさのあまりおしゃべりが止まらない

もう一人はうれしくて何も言わず涙がほおをつたう

後者は決まって生み終えたばかりの産婦の母である

乗り物酔い(平成26年9月15日)

「急ぐ」と一言云ったばかりに

タクシーは飛ばしに飛ばし

目的地に時間内に到着

乗客は眩暈に頭痛、嘔気に嘔吐

苦しみながらビル内に消えた

スピードに懲りた乗客は次の日

「飛ばすと嘔吐する」と運転手に警告

驚く運転手は時速30キロ

あわれに思ったのか

「お客さん」

飛行機は大丈夫ですか

船は 電車は 飛行機は

高速バスは 新幹線は

と乗り物づくしを始める始末

わたしはエレバーターが苦手でしてね

自転車にも追い抜かれる車中で

乗り物酔い談義に

花が咲く

季節は速足ですぎてゆき

酔い止めを服用し

機上の人となったくだんの乗客

滑走路に向かう機体に

大きく手をふる整備士の姿が

小さくなっていく

無事に飛んでくれ

手術を終えた外科医のように

願いのこもった両手の動きが目にしみた

 

 

 

 

 

 

朝はパニック(平成26年9月14日)

1分1秒も惜しい朝の出勤前

電話が鳴る

(ワンルームマンションのセールスだ)

ドアチャイムが鳴る

(宅配便だ)

トースターのパンは今にも

焦げそうだ

(すでに焦げてしまった)

トイレにかけこみたくなった

財布が見当たらない

携帯はどこだ

ヤカンの湯は沸騰し

空だきになろうとしている

コーヒーをのむ時間だけは

けずれない

毎日

朝はパニック

さようなら夏(平成26年9月5日)

短かった今年の夏

もう終わったのか

まもなく終わるのだろうか

気温が下がるのはうれしいけれど

夏が去るのはさびしい

さようなら夏

夏は来年また来る

けれど

私がまた来る夏に会えるかは

確かかどうかわからない

朝の疾走(平成26年9月5日)

朝の出勤時間と通学時間

自動車、バイク、自転車

黄色信号ならすっ飛ばし、

赤信号でも走り抜ける

追い越しをかけ

かけられた追い越しをかわす

いらいらした雰囲気が道路にみなぎる

気をつけなくては

事故にまきこまれないように

ぐっと緊張感が高まるときだ

誰かいないのか

早めにゆったりと出勤する者は

あんなに急いで出勤した後で

いい仕事ができるのか

せめて自分だけは朝の疾走に

加わらないように

飛行機雲を見上げたり

街路樹の変化に気がつくような

そんな人でいたい

 

 

こんなにも男はつらいよ(平成26年8月31日)

女三界に家なし

だそうだ

男三千世界に家なし

こんなにも男はつらいよ

 

男の隠れ家なんてとんでもない

住処すらない者に

隠れ家のあるはずはない

 

天空に蜘蛛の巣を張るがごとき

至難の業を強いられる

 

ああ蜘蛛がうらやましい

枝から枝へすばやく作り上げ

だんなよろしく獲物を待つだけ

 

作っても作っても破壊される巣を

きょうもまた作り続けるのだ

8月に逝きし弟よ(平成26年8月29日)

姉のわたしの

たったひとりの弟が

8月に逝った

妻とおさな児とわたしを残して

蝉の鳴く暑い日だった

わたしが思うただひとつのこと

もう一度きみに会いたい

わたしの命の半分を

きみにあげたかった

わたしの子が20歳になるまで

自分の命はそれ以上はいらないから

きみの子が20歳になるまで

生きさせてやりたかった

三十路になったばかりというのに

あまりにも早くきみは逝った

なんて哀しい8月

行かないで 夏(平成26年8月29日)

まだ話があるんだ

帰らないでくれ

ふりきって去って行ったきみ

短かった今年の夏のように

 

もっとそばにいてほしい

ずっとそばにいてほしい

きみの肩を抱いていたい

来年の夏が来るといわれても

来年また来るといわれても

そのとき

ぼくがいるかどうか

わからないのだから

 

もっと抱擁していたい

きみとふたりぴったりとくっつていたい

だから行かないでほしいきみ

 

短かった今年の夏

来年は来る 8月は来る

しかしそれは夏かどうか

雨と湿気

冷気と冷温

寒々とした心で

ぼくはいるかどうかわからない

 

8月 哀し(平成26年8月29日)

こんなに哀しい8月が

まためぐりくるとは

6日 長崎

9日 広島

12日 御巣鷹山日航機墜落

15日 終戦

16日 精霊流しに五山送り火

涙なしには見られまい

霊はふたたび還っていく

一族郎党が集う賑わいが

引き潮のように去っていく

広島 豪雨 土石流

8月哀し

お盆をすぎて

海はすでに秋である