立秋近づく(平成25年8月5日)

月日の過ぎるのの、早いこと、早いこと。

立秋になったら涼しくなる。こう思って

暑さに耐えてきた。もう1か月以上も。

字をさかさまにすれば、秋立つ。

秋が始まる。

セミも、トンボも、秋が始まる前に

夏の歌を歌って、歌いつくそうとしている。

この暑さは苦しい。でも時はとまってほしい。

何もかも、何もかも、きょうとあしたが同じで

あってほしい。

サイレント サマー(平成25年6月30日)

6月のあいだ、ずっと、夜は静けさに包まれていた。

一昨年までは水をはった田んぼに、カエルが

すみついて、夜になると、ないていた。

その声を聞きながら、眠りに落ちていた。

あのカエルはどこにいったのだろう。

物音のしない夏の

さびしさをかみしめた。

真夜中の喫茶店(平成25年6月30日)

夜になって昼間の暑さが去り、涼しくなった。夜が更けて

さらに気温が下がってきた。肌寒いほどだ。

明日から開店する喫茶店の店内を見に行った。

コーヒーカップやガラスのコップ、お盆、湯を注ぐ細口ポットが

整然と棚に並べられている。何とも言えない調和と秩序が

あって、明日、どんな客がこの店に現れるのだろうかと

想像をかきたてられた。しかし、

地域ネコがたいくつそうに入り口にねそべって、

客は誰も来ないかもしれない。

喫茶店の奥は父の居室になっていて、

キャビンと呼んだ方がいいくらいの狭さだ。

2か月の入院生活を終えて、明日、退院することになった。

足はなえて、歩くのもままならないけれど、家が

いいと父は言う。

カレンダーは5月のままだったので、2枚を

めくった。紙の破れる音が思っていたよりも

大きく、室内に響いた。

グリーフケアのひけつ(平成25年6月6日)

感情移入が大切だと思う。最初の一歩だと思う。

感情移入さえできてしまえば、言い方をかえると

感情移入が起きてしまえば、あとは自然に

進んでいく。

気になっている映画があって、

「カールじいさんの空飛ぶ家」というもの。

最初の10分間がすばらしい。

見る人はカールじいさんに感情移入が起きる。

そうやって初めて、物語の中に入っていくことができる。

他人事ではないのだと。

同窓会(平成25年6月6日)

今夜、東京で、高校の同窓会が開かれている。

遠くだし、仕事中の時間だし、参加はしない。

それでも、思いをはせる。

今は初夏だけれど、夏が来て、夏が去り、

秋が来て、秋が去る。冬が来たら、

葉が散って、木の間からは空がよく見える。

冬の木々から見える空が近くにあるように

高校に通っていた頃の日々が近くに感じられる。

つい昨日のことのように思い出される。

 

帰り道(平成25年4月23日)

土曜日の20日、夕方に大阪へ出かけた。

JR京都線を新快速電車に乗って、30分足らず。

沿線風景にときどき目をやりながら、車酔いを

しないようにときどきは目をつぶりながら。

疾走としかいいようのない猛スピードで電車は

走った。

広い広い大阪駅の地下街を歩いて、目的の

地下鉄の駅から1駅だけ乗った。地下鉄の券売機

の使い方がわからず、切符1枚を買うのに、しばし

とまどう。

着いた駅から地上に上がると、うすら寒く、小雨

混じりの、人通りの少ないビル街を歩いて、目的の

ビルへ。

椅子にじっと座って、話を聞く長い時間が終わった。

帰り道へ。

JR大阪駅から、新快速電車に乗り、京都駅に向かう。

大阪駅を電車が出発するとき、

反対側へ行けば、ふるさと神戸に着くのだと思った。

そうだった、ずっとずっと昔、帰り道は大阪から神戸へ

向かった。

それから長い時間が過ぎた。今は帰り道は逆方向なのだ。

一駅ごとに神戸は遠ざかり、京都が近づく。

三宮の街路、通いなれた学校、住んでいた家。

全部がそのまま残っているのに、自分は逆方向へ

進む電車に乗って、座席にもたれかかり、

母のいない神戸は、もう神戸ではなくなったのだった。

 

裏返しにされたカニと蟹(平成25年3月23日)

 

 

ゴッホの絵に

カニの絵が

ある。

そのカニは裏返しにされている。

ゴッホの生まれた国、オランダでもカニは好んで食べられる。

それにしても裏返しにされたカニに、なぜか、同情してしまう。

横歩きができなくて、足をむなしくもがくだけ。

まったく自由がない。哀れな姿だ。

ゴッホその人の心境だったのだろうか。いくら絵を描いても

一枚も売れない画家。貧しくて画材を買うにも事欠く生活。

蟹が描かれた絵はたくさんある。

けれども、裏返しにされたカニを描いた画家はゴッホ

ただ一人だ。その哀れさに心を打たれるし、自分の

姿に重ねる時がどんな人にもあるにちがいない。

写真はメジロを写したもの。みかんが大好きで、遠くから

やってくる。

カニと蟹(平成25年3月7日)

気温が高くなった。冬が終わりへと近づいた。

春が来る。

日本海側のカニ漁も終わりに近づいているのだろう。

小学5年生の女の子が書いた作文を思い出す。

カニの話だ。

「私は山陰地方のカニのとれる漁港で生まれた。

最近になって、京都市内に引っ越してきた。

市場では小さなカニは売れないからという理由で

はね物にされる。地元のお店だけで売られている。

私ははね物のちいさなカニが好きだ。とても

おいしいからだ。

誰からも振り向かれない、あの小さなカニの

ように、私はきちんと生きていきたい。

誰にも相手にされなくて、無視されて、さげすまれても

私はりっぱに生きていきたい。

お母さんと、妹と、私だけの家族で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐竜(平成25年2月19日)

大阪では恐竜展が開かれているそうだ。

恐竜店と

いう漢字を思い浮かべた。

恐竜のフィギュアを売っている店かと思われてしまいそうだ。

それとも恐竜が何かを売っている店かなと思われそうだ。

この頃、喫茶店ということばが頭にしみついているので、

てんと聞けば、店のことと思ってしまうのだった。

 

二月の喫茶店オープン(平成25年2月17日)

準備期間は5か月。

飲み物(コーヒー、紅茶、日本茶)と

ケーキの喫茶店をオープンした。

16席の小さなカフェ。

道路に近いところに

テーブルと黒板の立て看板を

出してある。道行く観光の人々が写真撮影していく。

入ってくれるのかな、と期待していると、たいていは

カメラをしまって、そのまま立ち去っていく。