すぐに役に立つこと(平成28年2月11日)

すぐに役に立つことは

すぐに役に立たなくなる

はるかな時間のかなた

はるかな空間のかなた

中学校の教室

国語の時間に聞いていたはずの箴言

居眠りしていたのか

ぼんやりしていたのか

聞いたおぼえはないのだ

あるいは

忘却しているだけか

 

今役に立たないばかりか

いつになっても役に立たないこと

そんなことならまかせてほしい

 

ある晩

書棚をうろついて

本がちっとも読めない

こういう晩には無意味なことをするに限る

それには辞書遊びが一番だ

 

これは日本製漢字ではなかろうか

調べると象形文字とある

英語では

umbrella

中学校で初めて習ったとき

奇妙なアルファベットの配列に

頭がくらくらした

イタリア語

ombrello

(ombraは日陰)

フランス語

ombrelle

元はと言うと

後期ラテン語

umbrella

そして

ラテン語

umbra(日陰)から派生

 

それにしても

イタリア語の

オンブラ

という響きはおもしろくて

日本語のおんぶを連想してしまう

オンブラとおんぶ

乳母日傘(おんばひがさ)で育ったあの女の子は

今頃どこでどうしているやら

 

はるかな時間と空間をまたいで

またまた中学校

英語の時間

語根を種明かししてくれる先生だった

しかしちっとも興味がわかなかった

語源と語根の大切さを

今なら理解できるのだが

 

各国語を横断しながら

語源や語根をちりばめる

そんな授業は中学生には苦痛だろうか

試験に関係がなかったら

くらいついてくれるかもしれない

 

 

 

 

85歳(平成28年2月11日)

自分を楽しませる方法を知っていた

老婦人の物語

『ベスト・フレンド』(昭和49年)より

週に1回の読書グループを世話していた

本を読んでくる人とケーキを焼いてくる人がいた

創作をしていた

友人、親戚と交際していた

ときどき旅行に出かけていた

4連休(平成28年2月11日)

今日は木曜日

明日金曜日を休暇にすると4連休

仮想4連休を考えていると

心が和んだ

連休1日目

手紙を書いた

連休2日目

読書した

連休3日目

詩を書いた

連休4日目

一人で小高い所へ登った

ほしいものはなに(平成28年2月10日)

とある郊外の精神科病院の

昼下がりの診察室では

医師面接が行なわれていた

「あなたのほしいものは何ですか?」

と尋ねられて

「嫁さんがほしいです」

と答えが返ってきた

自由な時間ですだとか

まとまった額の小遣いですだとかの

答えを予想していたのだ

気分の波がある病気の人だったのだが

芯のところでは至ってまっとうな人の心が

生きていた

入院してから20数年がたち齢50歳余り

この先も長い入院生活が待ち受けている

手に入るはずのないものと

知りつつ望みを語ったのだろう

 

病院のへいの外には

田園が広がり

点在する家々では

お嫁さんのいる男たちの生活が

なんの疑問をもつこともなく

営まれていた

 

 

冬のダイヤモンド(平成28年1月30日)

吉行淳之介氏が書いた小説の題

『星と月は天の穴』の

時代(1967年)から

はるかな時が過ぎて

星と星座について

知識が容易に得られる現代になった

宇宙には果てがあることを

星の数は有限であることを

吉行氏の時代は知らなかったし

現代人は知っている

 

夏逝き

秋去り

今は冬

冬の夜空を見上げれば

シリウス

カペラ

プロキオン

名まえの響きに耳をそばだて

アルデバラン

リゲル

冬のダイヤモンドが瞬く

最後は

ポルックス

 

天文好きの

男の子と女の子が

語り合うことは何もなく

ただ寄り添って

星の沈黙に同調していた

 

 

 

言葉は魔法だから(平成28年1月29日)

蜘蛛の営みは勤勉そのもの

木の枝と枝のあいだを

往復し幾何学模様の巣を

作り上げる

昆虫や蠅がひっかるのを

日がな一日待ち受ける

蜘蛛の営みは忍耐そのもの

自分が作った巣にひっかかる

そんな蜘蛛はおるまいて

人もまた

言葉を使い自分の巣を作り上げる

巣に反応する誰かを待つのである

待っているだけならいいが

言葉は魔法なので

自分で自分の言葉の巣にひっかかる

そんな輩(やから)が続出する

今日もまた

蜘蛛以下というべきか

蜘蛛以上というべきか

せめて道に迷わぬように

われらは今日もまた祈る者である

言葉はまことにやっかいである

 

さみしさとさびしさの間(平成28年1月28日)

標準語というものを知らないとき

さみしいとしか言わなかった

さみしいとしか聞いたことがなかった

いつの間にか

標準語を知るようになり

さびしいと聞き

またさびしいと言うようになった

歌謡曲を聴いていると

さみしいもあれば

さびしいと歌われている

慣れ親しんだ語感では

やはりさみしいがぴったりと来る

今夜はさみしくない時間が

過ぎていく

 

 

狂気と真実(平成28年1月27日)

狂気の中に真実があり

真実の中に狂気があり

世界は複雑混沌極まりない

干した濡れタオルが風にあおられ

地の果てまで飛んで行ってしまう

そんな長い時間を精神病院に生きた

男が退院した

アパートを借り自炊し

早寝早起き、自由を楽しんだ

干した濡れタオルが風に乗り

地の果てへ飛んでいく長い時間がまたすぎて

男はいつしか生活に倦み薬を放棄した

眠っていた狂気が再びうごめく

今こそ結婚するのだ

80歳だ あとはない

ダブルベッドを買い

真っ赤なパンツを買い集めた

カーテンがなまめかしく風にはためく

デパートの店員にほれ込み

プレゼントを持って日参する

ある日彼女がアパートに訪れる

そんな日を待つ忍耐そのものになった

 

センター試験まであと1週間(平成28年1月11日)

平成に変わるちょうど1年前

センター試験を受けた

その日は暖かく、会場の大学の芝生の庭に

シートをしいて、昼食を食べていると

日差しが心地よかった

うれしかったな あの日は

受験にこぎつけるまでの苦労と苦心がふっとんだ

帰りのバスを待っているとき、他の受験生が解答合わせを

しているのが聞えてきた

手から砂がこぼれるように次々に誤答に気づき

それでも夕方の青い空にうっすらとさす茜色の光の美しさに

心が動かされた

 

肝腎の試験はというと

数学はむずかしく2問目で手間取り

3問目へ進んだときは残り時間が少なくなっていた

高得点をねらっていたのだが、帰宅して採点すると

68%の出来。(これではとてもじゃないが

医学部の2次試験が無理だ)

しかし気落ちすることなく英語、社会は90%をとり、

国語は古文漢文がほとんどゼロ得点、現代国語は100%だったのだが

全体で79%の成績

関東の医学部へ2次試験願書を出すことに決めた

最終的にはセンター試験90%超えの生徒を合格させるとしても

2次試験の倍率を5倍に保つには79%成績の者にも受験のチャンスは

あると予測した

 

思ったとおり、受験番号が届いた

2次試験にそなえて、さっぱりわからない物理の教科書を

詠むのだが、むずかしくてむずかしくて閉口した

(未完)

 

愛の果て(平成28年1月11日)

愛が愛のままにとどまることは

ときにむずかしい

時間がたてばたつほどむずかしい

失われるのはしかたがないとして

憎悪へと変わったり

敵意に変わったりするのは

いただけない

にもかかわらず

それはひんぱんにおきていることだ