あくびができるような
判で押したような
そんな毎日がいい
サプライズはいらない
びっくらこいだ
亡父が口にしていた気にいりの文句だった
びっくらこぐような日は来ないでほしい
時をへて今はびっくらぽん
ひびきだけで笑いをさそわれる
けれど
びっくらぽんもいらない
鉄道ダイヤのように
何もかもが定められた秩序のもとに
始まったオーケストラが楽譜を
きざみ終章へたどり着くように
サプライズのない一日をきょうも願う
あくびができるような
判で押したような
そんな毎日がいい
サプライズはいらない
びっくらこいだ
亡父が口にしていた気にいりの文句だった
びっくらこぐような日は来ないでほしい
時をへて今はびっくらぽん
ひびきだけで笑いをさそわれる
けれど
びっくらぽんもいらない
鉄道ダイヤのように
何もかもが定められた秩序のもとに
始まったオーケストラが楽譜を
きざみ終章へたどり着くように
サプライズのない一日をきょうも願う
どんなにたいくつな家庭であっても
住まいとは隣りの家から遮断された
そんな空間のことだ
遮断の壁が取り払われたらー
隣りのオヤジがむすこをなぐった
その隣ではむすこがおふくろをなぐった
こんな話を聞くたびに
心が騒ぐ
騒いだ心は簡単には静まらない
家なるテレビのおかげで
難民のこどもが波打ち際に
打ち寄せられた
目を覆いたくなる映像
我が子と年も変わらぬ
その姿に目の前が暗くなる
地震によって振動するマンションの
まさに倒壊する映像
自分の住んでいるマンションが
もし倒れたら
きっと自分もこどもも
助からないだろう
せっかく遮断壁の内に住みながら
住まいなるテレビのおかげで
自分の無力が身に染みて
心配性の一日がすぎていく
すぐに役に立つことは
すぐに役に立たなくなる
はるかな時間のかなた
はるかな空間のかなた
中学校の教室
国語の時間に聞いていたはずの箴言
居眠りしていたのか
ぼんやりしていたのか
聞いたおぼえはないのだ
あるいは
忘却しているだけか
今役に立たないばかりか
いつになっても役に立たないこと
そんなことならまかせてほしい
ある晩
書棚をうろついて
本がちっとも読めない
こういう晩には無意味なことをするに限る
それには辞書遊びが一番だ
傘
これは日本製漢字ではなかろうか
調べると象形文字とある
英語では
umbrella
中学校で初めて習ったとき
奇妙なアルファベットの配列に
頭がくらくらした
イタリア語
ombrello
(ombraは日陰)
フランス語
ombrelle
元はと言うと
後期ラテン語
umbrella
そして
ラテン語
umbra(日陰)から派生
それにしても
イタリア語の
オンブラ
という響きはおもしろくて
日本語のおんぶを連想してしまう
オンブラとおんぶ
乳母日傘(おんばひがさ)で育ったあの女の子は
今頃どこでどうしているやら
はるかな時間と空間をまたいで
またまた中学校
英語の時間
語根を種明かししてくれる先生だった
しかしちっとも興味がわかなかった
語源と語根の大切さを
今なら理解できるのだが
各国語を横断しながら
語源や語根をちりばめる
そんな授業は中学生には苦痛だろうか
試験に関係がなかったら
くらいついてくれるかもしれない
自分を楽しませる方法を知っていた
老婦人の物語
『ベスト・フレンド』(昭和49年)より
週に1回の読書グループを世話していた
本を読んでくる人とケーキを焼いてくる人がいた
創作をしていた
友人、親戚と交際していた
ときどき旅行に出かけていた
今日は木曜日
明日金曜日を休暇にすると4連休
仮想4連休を考えていると
心が和んだ
連休1日目
手紙を書いた
連休2日目
読書した
連休3日目
詩を書いた
連休4日目
一人で小高い所へ登った
とある郊外の精神科病院の
昼下がりの診察室では
医師面接が行なわれていた
「あなたのほしいものは何ですか?」
と尋ねられて
「嫁さんがほしいです」
と答えが返ってきた
自由な時間ですだとか
まとまった額の小遣いですだとかの
答えを予想していたのだ
気分の波がある病気の人だったのだが
芯のところでは至ってまっとうな人の心が
生きていた
入院してから20数年がたち齢50歳余り
この先も長い入院生活が待ち受けている
手に入るはずのないものと
知りつつ望みを語ったのだろう
病院のへいの外には
田園が広がり
点在する家々では
お嫁さんのいる男たちの生活が
なんの疑問をもつこともなく
営まれていた
吉行淳之介氏が書いた小説の題
『星と月は天の穴』の
時代(1967年)から
はるかな時が過ぎて
星と星座について
知識が容易に得られる現代になった
宇宙には果てがあることを
星の数は有限であることを
吉行氏の時代は知らなかったし
現代人は知っている
夏逝き
秋去り
今は冬
冬の夜空を見上げれば
シリウス
カペラ
プロキオン
名まえの響きに耳をそばだて
アルデバラン
リゲル
冬のダイヤモンドが瞬く
最後は
ポルックス
天文好きの
男の子と女の子が
語り合うことは何もなく
ただ寄り添って
星の沈黙に同調していた
蜘蛛の営みは勤勉そのもの
木の枝と枝のあいだを
往復し幾何学模様の巣を
作り上げる
昆虫や蠅がひっかるのを
日がな一日待ち受ける
蜘蛛の営みは忍耐そのもの
自分が作った巣にひっかかる
そんな蜘蛛はおるまいて
人もまた
言葉を使い自分の巣を作り上げる
巣に反応する誰かを待つのである
待っているだけならいいが
言葉は魔法なので
自分で自分の言葉の巣にひっかかる
そんな輩(やから)が続出する
今日もまた
蜘蛛以下というべきか
蜘蛛以上というべきか
せめて道に迷わぬように
われらは今日もまた祈る者である
言葉はまことにやっかいである
標準語というものを知らないとき
さみしいとしか言わなかった
さみしいとしか聞いたことがなかった
いつの間にか
標準語を知るようになり
さびしいと聞き
またさびしいと言うようになった
歌謡曲を聴いていると
さみしいもあれば
さびしいと歌われている
慣れ親しんだ語感では
やはりさみしいがぴったりと来る
今夜はさみしくない時間が
過ぎていく
狂気の中に真実があり
真実の中に狂気があり
世界は複雑混沌極まりない
干した濡れタオルが風にあおられ
地の果てまで飛んで行ってしまう
そんな長い時間を精神病院に生きた
男が退院した
アパートを借り自炊し
早寝早起き、自由を楽しんだ
干した濡れタオルが風に乗り
地の果てへ飛んでいく長い時間がまたすぎて
男はいつしか生活に倦み薬を放棄した
眠っていた狂気が再びうごめく
今こそ結婚するのだ
80歳だ あとはない
ダブルベッドを買い
真っ赤なパンツを買い集めた
カーテンがなまめかしく風にはためく
デパートの店員にほれ込み
プレゼントを持って日参する
ある日彼女がアパートに訪れる
そんな日を待つ忍耐そのものになった